2022年9月6日火曜日

赤い鳥第5巻第3号

赤い鳥05.03 大正9年(1920)9月1日発行 8月5日印刷納本
目次

赤い鳥05.03 大正9年(1920)9月1日発行 8月5日印刷納本

   「赤い鳥」九月号(第五巻第三号)
お月さま(表紙、石版) 清水良雄
にせ浦島(口絵、水絵) 清水良雄
推奨自由画(口絵、網版) 山本鼎選
 蛍がり 丸山象次郎
 警察署 市川一
お山の大将(曲譜) 成田為三
葉つぱ(童謡) (6) 北原白秋
跛の狐(童話) (8) 鈴木三重吉
セッサリイの白牛(童話) (20) 久米正雄
藁の牛(童話) (28) 小林哥津子
花火(童謡) (34) 西條八十
しみのすみか(童話) (36) 楠山正雄
いたづら人形(童話) (46) 佐藤春夫
 とんぼ(入選童謡) (46) 北原白秋選
 麦の穂(推奨童謡) (54) 有馬淳
 蚯蚓(推奨童謡) (54) 垠谷一彦(きしやかずひこ) [根谷]
 青蛙(推奨童謡) (55) 早川午佐久
 なみだの小人(推奨童謡) (55) 堀部英次
腰抜武士(童謡) (56) 小島政二郎
白鳥の国(童話) (60) 秋田雨雀
樫の宮(童話) (66) 豊島与志雄
鹿の群、猪の群(歴史童話) (74) 鈴木三重吉
頬ひげ(童謡) (82) 西條八十
 椋の花(自作童謡) (84) 北原白秋選
 ほゝ白の巣(模範綴方) (88) 鈴木三重吉
 特選図書購読会 (98)
さし絵、かざり絵 清水良雄 小笠原寛三
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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集 文泉堂(1975)」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。
鈴木三重吉童話全集については、次を参照

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赤い鳥05.03p8-19童話『跛の狐』鈴木三重吉 外部リンク
鈴木三重吉童話全集04.10『びつこの狐』(ユーゴースラビヤ)  外部リンク

出典:
Laughing Eye and Weeping Eye, or the Limping Fox (Servian Story)  外部リンク
[Contes Populaires Slaves. Traduits par Louis Léger. Paris: Ernest Leroux, éditeur.]
THE GREY FAIRY BOOK By Various Edited by Andrew Lang

注:三重吉の翻訳には、原話とは違う部分がいくつかあります。その中でも、次の2つは特に目を引きます。
第一に、子ども達が、父親に、「一方の目は笑っているのに、もう一方の目は泣いているのはなぜか?」と尋ねると、父親が激怒します。この際、原話では、「ナイフを持って襲いかかった」となっていますが、三重吉はこの部分を「拳固を振り上げた」と、常識的な表現に変えています。原話では、ナイフにも怯まなかった三男の勇気を強調したかったのかもしれません。

次に、主人公は、父親が盗まれた「ブドウの木」を取り返しに行くのですが。次々に失敗します。失敗の変遷は次の通りです。

 1.「ブドウの木」→2.「黄金のリンゴの実」→3.「24時間で世界を回れる馬」→4.「黄金の乙女」

そして三重吉は、2.「黄金のリンゴの実」のモチーフを、「銀の卵を生む鳩」と変更しています。このようなモチーフの変更は、「赤い鳥04.06p52-59童話『大当てちがひ』樋口やす子(鈴木三重吉)」でも用いられたのではないかと考えられます。

類話:
Type 550 Search for the Golden Bird.
グリム童話57『黄金の鳥』

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赤い鳥05.03p20-27童話『セッサリーの白牛』久米正雄  外部リンク 

注:目次には『セッサリイの白牛』とある。

出典:
The Serpents' Gift. 外部リンク
The all sorts of stories book by Mrs. Lang ; edited by Andrew Lang

ギリシア神話1.9 クレーテウス…ビアースとメラムプース  外部リンク
ギリシア神話 アポロドーロス著 高津春繁訳
世界文学全集第2(ギリシャ神話)

類話:
伝説の時代24章『メランプス』 外部リンク
タマス・ブルフィンチ著 野上弥生子訳 向文堂 大正2(1913)
注:夏目漱石の序文がある。外部リンク

オヂュッセーア 第十五歌 223 外部リンク
ホーマー 著 土井晩翠 訳 富山房 昭和18(1943)

 twitter

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赤い鳥05.03p28-33童話『藁の牛』小林哥津子

同話:
The Straw Ox (Cossack)  外部リンク
Tales of Laughter A THIRD FAIRY BOOK EDITED BY KATE DOUGLAS WIGGIN
AND NORA ARCHIBALD SMITH

THE STRAW OX. 外部リンク
MORE RUSSIAN PICTURE TALES BY VALERY CARRICK
TRANSLATED BY NEVILL FORBES

藁の牛 外部リンク
世界お伽噺. 第三十六編  巌谷小波 編  博文館 明治35年(1902)

麦藁の牛 外部リンク
ろしや童話集 永橋卓介 編 金蘭社 
世界童話叢書 ; 第3編 大正14 

わらの牛 外部リンク
小波世界お伽噺 巖谷小波 生活社 昭和21-22
序文:
『露領コサックのお伽噺として、世界口碑集(米国出版)の中にありました。漆のつもりで書いてあるのは、実はリモンといふ、一種の塗り物でありますが、わざと日本風に変えました。』
(鈴木華邨 画)

類話:
Type 175 タール人形と兎
K741.
赤い鳥08.06p8-17童話『やんちや猿』鈴木三重吉
(場面4)

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赤い鳥05.03p36-45童話『しみのすみか』楠山正雄  外部リンク
苺の国 赤い鳥の本第8冊 にせ浦島 外部リンク 若くなる泉  外部リンク

注:「しみのすみか」は、「1.にせ浦島」と「2.若くなる泉」の2つの話が収められています。

1.にせ浦島
出典:
しみのすみか物語  石川雅望  文化2年
丹後国の痴人龍宮に行たる事 外部リンク

注:にせ浦島は、浦島太郎のパロディーで、「浦島太郎」と「クラゲの骨無し」の2つの話が組み合わされています。そして、「クラゲの骨無し」の話は2つのタイプがあります。

a.クラゲが竜宮城の門番の話

日本昔話通観577『猿の生き肝』
①竜宮の乙姫の病気に猿の生き肝を薬にすることになり、亀が猿を連れてくる使いにやられる。
②亀が、竜宮に招待したい、と猿をあざむいて背に乗せて連れてくると、門番のくらげがうっかり本音を漏らす。
③猿が、肝は木に掛けている、と言うので、亀は猿を地上へ連れ戻す。
④猿が亀の背に石をぶつけ、亀の甲羅にひびが入る。
⑤くらげは魚たちに叩きのめされ、骨なしになる。

日本昔話名彙 海月骨なし(猿の生肝)  外部リンク
柳田国男 日本放送出版協会
亀が生肝をとるつもりでだまして海中に連れて行つた猿に、海月(又は蛸)が告げ口をして骨を抜かれる話。

日本の昔話  海月骨無し 外部リンク
柳田国男 三国書房 昭和16(1941)

日本昔話 くらげほねなし 外部リンク
坪田譲治 講談社 昭和26

Die Qualle 外部リンク
Japanische Märchen und Sagen
David Brauns 1885(明治18)

HOW THE JELLY-FISH LOST ITS SHELL. 外部リンク
Japanese Fairy World Stories from the Wonder-lore of Japan
William Elliot Griffis · 1880(明治13)

注:日本の昔話集のようなものは、まず、明治になって日本にやってきた西洋人により編集されます。グリム兄弟などの成功により、昔話の収集というのは学問の一分野と考えられていたためだと思います。

b.クラゲが猿を迎えに行く話

日本童話宝玉集.下巻 くらげのお使  外部リンク
楠山正雄 編 富山房 大正10-11

The Silly Jelly-Fish 海月  外部リンク
Basil Hall Chamberlain
日本昔噺第十三号 弘文社 明治20年(1887)

注:a.bのクラゲの話は、今昔物語が基になっています。

今昔物語05.25『亀、猿の為に謀らるる語』 外部リンク
攷証今昔物語集. 芳賀矢一 編 大正2-3

注:今昔物語のこの話は、インドの昔話が基となっています。(仏典系の類話については、攷証今昔物語集の解説に詳しくあるので参照下さい。)

カリーラとディムナ05『猿と亀』
イブヌ・ル・ムカッファイ 著 菊池淑子 訳  東洋文庫
注:カリーラとディムナは、インドのパンチャタントラがアラビアにつ伝わった話です。

パンチャタントラ 4『猿の心臓をとりそこなった鰐(または海豚)』  外部リンク
世界童話大系. 第10巻(印度篇) 世界童話大系刊行会 大正14

注:カリーラとディムナでは、猿を騙そうとするのは亀ですが、パンチャタントラでは、亀ではなく鰐(または海豚)となっています。今昔物語は、カリーラとディムナの系統の話と言えると思います。また、沙石集では蛟(みずち)たなっているので、パンチャタントラの系統と言えると思います。

沙石集8.5『学匠之蟻蹣之問答事』 外部リンク
攷証今昔物語集. 芳賀矢一 編 大正2-3  (解説付記)

Type 91 家に心臓を置いてきた猿(猫)
K544 心臓は別な場所にあると主張して助かる。
赤い鳥07.03p6-15童話『洗濯屋の驢馬』(1.猿と鮫)鈴木三重吉

2.若くなる泉
出典:
しみのすみか物語  石川雅望  文化2年
美濃国の老夫婦わかかへる事 外部リンク

翻刻:
六樹園 [著][他] 珍書会 大正4
賞奇楼叢書 ; [1期] 第5集
丹後国の痴人龍宮に行たる事 外部リンク
美濃国の老夫婦わかかへる事 外部リンク
注:おそらく、楠山正雄が基にしたのはこの本だと思われます。

日本昔話名彙 若返りの水[彼岸水] 外部リンク
柳田国男 日本放送出版協会

日本昔話通観29『若返りの水』
①爺が山で仙人に教わって清水を飲み、若返る。
②婆がまねてその清水を飲みすぎて赤子になり、爺に養われる。

今歳咄 ぢぢとばば  外部リンク
今歳花時  書苑武子  文苑堂  安永2 [1773] 刊

参考:
Type 753 キリストと鍛冶屋
変身物語7.160『アイソン』
変身物語7.290『ペリアスとその娘たち』
グリム147『わかくやきなおされた小男』



2022年8月29日月曜日

赤い鳥第5巻第2号

赤い鳥05.02 大正9年(1920)8月1日発行 7月5日印刷納本
目次


   「赤い鳥」八月号(第五巻第二号)
ほたる(表紙、石版) 清水良雄
指の蝋燭(口絵、水絵) 清水良雄
推奨自由画(口絵、網版) 山本鼎選
 かりうど 松野雪子
 朝鮮人 松下きくえ
玩具の舟(曲譜) 成田為三
象と芥子人形(推奨曲譜) 渡邉健次郎
電信柱の帽子(童謡) (2) 西條八十
赤いか、青いか(童話) (4) 鈴木三重吉
一房の葡萄(童話) (16) 有島武郎
海と少年(童話) (26) 加能作次郎
金の毬(童話) (34) 樋口やす子
いたづら人形(童話) (42) 佐藤春夫
 白い卵(入選童謡) (42) 北原白秋選
 てんとう虫(推奨童謡) (50) 都築益世
 蟇口(推奨童謡) (50) 藤井東洋男
 山火事(推奨童謡) (51) 佐藤信雄
ほとゝぎすの昇天(童話) (52) 中村星湖
馬の国(童話) (62) 野上豊一郎
腰抜武士(童話) (68) 小島政二郎
大鈴小鈴(歴史童話) (74) 鈴木三重吉
仲よし小よし(童謡) (84) 西條八十
 わらび取り(模範綴方) (86) 鈴木三重吉選
 山の子猿(自作童謡) (93) 北原白秋選
 特選図書購読会 (98)
さし絵、かざり絵 清水良雄 小笠原寛三 深澤省三

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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。

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赤い鳥05.02p4-15童話『赤いか、青いか』鈴木三重吉
鈴木三重吉童話全集03.05『おぢいさんと小人』(デンマーク) 外部リンク

出典:
I Know what I Have Learned (From the Danish.) 外部リンク
THE PINK FAIRY BOOK By Various Edited by Andrew Lang

類話:
赤い鳥03.01p26-27童話『おぢいさんと三人の婿』樋口やす子
鈴木三重吉童話全集04.31『おぢいさんと三人のむこ』(ロシア)
The Sun, The Moon and Crow Crowson  外部リンク
Russian Folk-Tales by Alexander Nikolaevich Afanasyev,
translated from the Russian, with introduction and notes, by Leonard A. Magnus.
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赤い鳥05.02p34-41童話『金の毬』樋口やす子
鈴木三重吉童話全集02.13『金のまり』(北米土人) 外部リンク

出典:
THE LION AND THE CAT  外部リンク
[Adapted from North American Indian Legends.]

THE BROWN FAIRY BOOK Edited by Andrew Lang
With Numerous Illustrations by H. J. Ford
LONGMANS, GREEN, AND CO. 1904
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赤い鳥05.02p68-73童話『腰抜武士』小島政二郎
赤い鳥05.03p56-58童話『腰抜武士』小島政二郎
新しい童話 第2偏 支那船 腰抜武士 外部リンク
小島政二郎,久米正雄 著 春陽堂 大正10

注:「新しい童話」の序に次のようにあります。
「腰抜武士」は西鶴の有名な「武道傳來記」のうち、巻の六第三「毒酒を受太刀の身」から筋を借りている。 外部リンク

出典:
武道伝来記 六巻第三 毒酒を請太刀の身  外部リンク
井原西鶴 萬屋清兵衛・岡田三郎右衛門 貞享4[1687] 貞享四年卯初夏

注:「腰抜武士」と「毒酒を請太刀の身」は、ほぼ同じ内容ですが、部分部分に違いはあります。例えば、若殿の御前で熊井五助が弓の技を披露する場面では、腰抜武士では、「矢は一本しか許されません。ところが、熊井は物の見事にその的の真ん中を射抜きました。」となっていますが、原典では、「三手の矢五本当り殊更手前見事なるに列座驚き入。」となっています。(弓道では、一手で二本の矢を持つので、三手なので六本の矢を射て五本当たったということになります。)
  西鶴の話に出てくる熊井五助は、鵺退治の源頼政や、平家の扇を射抜いた那須与一や、名人源眤太政大臣道長のような昔の英雄ではなく、江戸時代の武芸に優れた人物ということなので、六本の矢のうち一本外すくらいがリアリティがあったのだと思います。
 

2022年8月10日水曜日

赤い鳥第5巻第1号

赤い鳥05.01 大正9年(1920)7月1日発行 6月5日印刷納本
目次


   「赤い鳥」七月号(第五巻第一号)
舟あそび(表紙、石版) 清水良雄
長安の都(口絵、油絵) 清水良雄
推奨自由画(口絵、網版) 山本鼎選
 植木 竹尾潮
 花 酒井堅信
烏の手紙(曲譜) 近衛秀麿
犬と雲(童謡) (2) 西條八十
間諜(童話) (4) 鈴木三重吉
杜子春(童話) (18) 芥川龍之介
天地の水(童話) (34) 楠山正雄
罌粟の圃(童話) (44) 小川未明
いたづら人形(童話) (52) 佐藤春夫
 野火(入選童謡) (52) 北原白秋選
 蝋燭(推奨童謡) (60) 熊岸英一
 鵞鳥の首(推奨童謡) (60) 加田愛咲
 山(推奨童謡) (61) 林田馬行
狼と牡牛との戦(童話) (62) 菊池寛
年あらそひ(少年少女劇) (70) 久保田万太郎
木の葉の小判(童話) (82) 江口渙
難波のお宮(歴史童話) (88) 鈴木三重吉
春のくれがた(童謡) (98) 西條八十
さし絵、かざり絵 清水良雄 深澤省三

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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。

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赤い鳥05.01p04-17童話『間諜』鈴木三重吉
鈴木三重吉童話全集6.1『まはしもの』(フランス、ドゥ・モウパッサン) 外部リンク

出典:Deux amis
GUY DE MAUPASSANT

二人の友 ギイ・ド・モオパッサン 外部リンク
ルクサンブール 石川剛 訳 大倉書店 大正2年

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赤い鳥05.01p18-33童話『杜子春』芥川龍之介

出典:古今説海 巻30 説淵10別傳10『杜子春傳』(明)陸楫 編  外部リンク
舊小說 乙集 唐p16『杜子春傳』 外部リンク

杜子春伝の日本語訳
杜子春 杜子春伝 外部リンク
伝説之支那 松井等 著 楠林書店 大正11

類話:大唐西域記卷第七巻の11『救命池の伝説』 外部リンク

参考サイト:日本と中国、二つの「杜子春」 外部リンク

注:赤い鳥の「杜子春」には、物語が終わった後に、付記があります。

 付記
 これは杜子春の名はあつても、名高い杜子春伝とは所々、大分話が違つてゐます。(三)のしまひにある七言絶句は、呂洞賓(りよどうひん)の詩を用ゐました。少年少女の読者諸君には、「ちちんぷいぷいごよの御宝」と同じやうに思つて貰ひたいのです。



注:杜子春は3つのモチーフから構成されています。

モチーフ1:財産を散在し人間不信になる。

The Sleeper and the Waker.  外部リンク
SUPPLEMENTAL NIGHTS TO THE BOOK OF THE THOUSAND AND ONE NIGHTS
WITH NOTES ANTHROPOLOGICAL AND EXPLANATORY
By Richard F. Burton
ORGINAL CONTENTS OF THE ELEVENTH VOLUME.

注:バートンの解説には次のようにあります。「この話はオスマン・トルコのムスタファの治世の晩年に完成した、「Al-Ishákí」に見られ、事実として語れれる逸話である」

千夜一夜11巻『眠っている者と目ざめている者』 外部リンク
バートン版 大宅壮一 訳

モチーフ2:夢の世界に誘われる。

杜子春では悪夢に誘われる。
千夜一夜「眠っている者と目ざめている者」では、教主(カリフ)になったと思い込まされる。
今昔物語5.3『 国王が、盗人に夜光る玉を盗まれた語』では、天界にいると思わせる。


モチーフ3:言葉を発してはならない。

Type 451-3.(b)妹は兄たちの魔法を解くために、何年も沈黙を守らねばならない。
D758.沈黙を守ることで魔法を解く

赤い鳥『白い鳥の話』久保田万太郎
02.05p22-27,02.06p50-55,03.01p52-55童話

THE SIX SWANS 外部リンク
THE Yellow Fairy Book BY ANDREW LANG
グリム金田54『六羽の白鳥』49

今昔物語5.3『 国王が、盗人に夜光る玉を盗まれた語』では、盗人は「盗みをした」と答えるように誘導されるが答えない。

注:芥川龍之介の「杜子春」と楠山正雄の「天地の水」の出典は次に示すような関係にあります。

赤い鳥05.01p18-33童話『杜子春』芥川龍之介
赤い鳥05.01p34-43童話『天地の水』楠山正雄

古今説海 巻30 説淵10別傳10『杜子春傳』(明) 陸楫 編  外部リンク
古今説海 巻53 説淵33別傳33『李衛公別傳』(明) 陸楫 編 外部リンク

舊小說 乙集 唐p16『杜子春伝』 外部リンク
舊小說 乙集 唐p40『李衛公別伝』 外部リンク

同誌・同巻で前後する作品の出典が同じというのは、偶然とは考えられません。出典の選定に編集者のなんらかの意図があったのかもしれません。

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赤い鳥05.01p34-43(童話)『天地の水』楠山正雄
赤い鳥の本  第8冊 苺の国 『天の水地の水』 外部リンク
楠山正雄 赤い鳥社 大正10
 
注:赤い鳥本誌以後題名は、「天地の水」から「天の水地の水」に変えられています。

出典:
古今説海 巻53 説淵33別伝33『李衛公別傳』(明)陸楫 編  外部リンク
舊小說 乙集 唐p40『李衛公別伝』 外部リンク

(十四) 厩戸竜車 李靖馬駿  外部リンク
箋註桑華蒙求. 巻之下 木下葵峰 (公定) 著[他]

十分覆(じゅうぶんハこぼるゝ)  外部リンク
籠耳. 巻之3 稀書複製会 編 米山堂 昭和14年
 
旱魃に雨ごひをする事むかしよりその例なきにあらず。蔵人神泉苑(しんぜんえん)にゆきむかひ人をあつめ池のほとりを掃除し石に水そゝきさて高声(かうしやう)にみな人一同に雨たべ海龍王といえり七日がうちにしるしなきときハ蔵人をかへらるゝとなん又しるしありて雨ふりぬれバみかど蔵人を朝餉(あさがれい)へめし御衣をたまハり蔵人庭へをりて舞踏する事あり又陰陽師(をんやうじ)五龍の祭を奉仕する儀もありあるひハ神祇官(じんぎくワん)御ことのりをうけ給ハりて諸神にいのる儀もあり又七大寺(しちだいじ)にて請雨経をよむ儀もありあるひハ諸寺諸社にて金剛経般若経をよみし例も有し也禁秘抄に詳に見へたりもろこし李衛公といふ人山中に猟(かり)して山ふかく入(いり)て日くれぬ。こゝに丹ぬりの門をたてたる家あり.うちにいりてみれバあるじもなし。さいわいの事とおもひこゝに一夜をあかしぬその夜やはんばかりになにものとハしらず。門をあわたゝしくたゝく李衛公門をひらきて見れバ一人の女なり。この女李衛公を見てあやしミていわく。こゝハこれ人間世界にあらず龍宮也なんぢいずくよりきたれるやあるじハいづかたへかゆきける外界の民(たミ)旱魃をうれひてしきりに雨ごひをするがゆへに天よりこよひ雨をふらすべきよしのつかいにまいりたりあるじの人るすでハさいわひその方(ハう)をたのむべしとて青駁毛(あをぶちげ)の馬に黄いろなる鞍覆(くらおほひ)をかけ。かたハらに雨をいれたるちいさき缾(つぼ)ひとつを李衛公にわたしていひけるハ。その方この馬にまかせてゆくときいづくにとなりとも。この馬嘶ところにてこの缾なる水一滴を馬の髪(ふりかミ)のうへよりこぼし給へ。この一滴の水下界におちて地上三尺となる也かまへておゝくこぼし給ふ事なかれとおしえてたちまち雷(いかつち)いなびかりおびたゝしくしてかの女ハ黒雲(こくうん)にうちのりゆきがたしらずうせにける李衛公くだんの缾(つぼ)をたづさへかの馬にうちのるとひとしくとぶがごとくせつながあいだに虚空をかけりめぐるときわが故郷のうへをとをる李衛公おもふやうわが故郷にもこのごろ旱魃して雨をこひけるほどにとおもひひいきに三十滴余こぼせしほどに故郷は洪水いでゝ平地に水三丈あまりとなり田畠民家(でんばくミんか)こと/\くながれけると也公のわたくしハせぬ事十分ハ覆もの也とぞ 

参考文献
『桑華蒙求』概略・出典覚書(下巻) 外部リンク
本間洋一
同志社女子大学 学術研究年報 第 65 巻 2014年
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赤い鳥05.01p62-69童話『狼と牡牛との戦』菊池寛
狼と牡牛との戦 赤い鳥の本 4 三人兄弟 菊池寛 大正10  外部リンク

注1:この話は、北海道の牧場で働いていた権助という年寄から聞いた話。という体裁で書かれているので、北海道に伝わる話、或いは創作と考えられてきましたが、スコットランドのハイランド地方が舞台の「THE BATTLE OF THE WHITE BULL」の翻訳であると分かりました。

出典:
THE BATTLE OF THE WHITE BULL 外部リンク
The all sorts of stories book
by Mrs. Lang ; edited by Andrew Lang

注2:菊池寛の「赤い鳥の本 4 三人兄弟」の中には、The all sorts of stories book を出典とする話が、他に2作品あります。

不思議な話 外部リンク
The Strange Tale of Ambrose Gwinett  外部リンク
本当のロビンソン 外部リンク
The Real Robinson Crusoe 外部リンク

また、「赤い鳥04.05p62-67童話『若いコサツク騎兵』小島政二郎」も同じ本を元にしていますので、菊池の翻訳に小島が関わっていた可能性が考えられます。
 
注3:「狼と牡牛との戦」の話の終わりには次のような文が添えられています。
『恐ろしい狼二匹と戦つて、見事に勝つた「白」はその後も牛仲間の大王のやうに、威張つてゐましたが、丁度それから四年目の冬に、熊の中でも一番強い羆といふ大熊と戦つて、相手を角で突き殺すと一緒に、自中(じぶん)も熊の前足で、首の骨を折られて、死んでしまひました。・・・』
 これは、原文にはないものなので、翻訳の際に付け加えられたものです。そしてこれは、「赤い鳥02.01p62-67創作童話『熊』久米正雄」の関連を匂わせているかのようです。
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赤い鳥04.05p68-72童話『木の葉の小判』江口渙
赤い鳥05.01p82-87童話『木の葉の小判』江口渙
リンク
 
 

2022年7月27日水曜日

赤い鳥第4巻第6号

赤い鳥04.06 大正9年(1920)6月1日発行 5月5日印刷納本
目次

赤い鳥04.06 大正9年(1920)6月1日発行
   「赤い鳥」六月号(第四巻第六号)
象(表紙、石版)   清水良雄
馬の国(口絵、水絵) 清水良雄
恐い頭取(口絵、黒白画) 矢部季
 学校(推奨自由画) 加藤すみ子
 家(推奨自由画) 木俣修二
 月のフートボール(推奨自由画) 益子九郎
蟻(童謡) (2) 西條八十
猿の手(童話) (12) 鈴木三重吉
艦長の子(童話) (16) 菊池寛
朝顔(童話) (22) 伊東英子
初夏(はつなつ)(童謡) (28) 柳澤健
子供が猿になつた話(童話) (30) 水島爾保布
弓試合(童話) (38) 久米正雄
いたづら人形(童話) (42) 佐藤春夫
 烏のたまご(入選童謡) (42) 北原白秋選
 鳥のをばさん(推奨童謡) (50) 吉永鉄男
 耳(推奨童謡) (50) 服部倬治
 かに(推奨童謡) (51) 山口利国
大当てちがひ(童話) (52) 樋口やす子
馬の国(童話) (60) 野上豊一郎
朝鮮人参(童話) (64) 江口千代子
宇治の渡し(歴史童話) (68) 鈴木三重吉
お山の大将(童謡) (78) 西條八十
 蛙つり(模範綴方) (80) 鈴木三重吉選
 栗鼠の子(自作童謡) (81) 北原白秋選
綴方教授法の根本的研究 (89) 鈴木三重吉
「金の輪」を読んで (96) 秋田雨雀
さし絵、飾り絵 清水良雄 深澤省三
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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。
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赤い鳥04.04p04-13童話『猿の手』鈴木三重吉
赤い鳥04.05p04-11童話『猿の手』鈴木三重吉
赤い鳥04.06p04-15童話『猿の手』鈴木三重吉
鈴木三重吉童話全集06.26『猿の手』(イギリス、ウヰリアム・ジェーコップス)

出典・類話 リンク

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赤い鳥04.06p16-21童話『艦長の子』菊池寛
艦長の子 赤い鳥の本 4 三人兄弟 菊池寛 外部リンク

注:この話は、1798年のイギリスとフランスのナイル海戦の際に、フランスの旗艦ロリアン号の艦長の子が、父親の「持ち場を離れるな」という命令を守り通した。という話を、ヘマンズ夫人が、Casabianca という詩にしたものです。この詩は戦場の美談として、人気を博し、数多くの読本に取り入れられています。
 菊池は、ロバート・サウジーの「ネルソン伝」にあるナイル海戦の部分を資料として、実録風に記述しています。そして、物語の最後は、ヘマンズのCasabianca の詩を敷衍して「このアバキールの海戦(ナイル海戦)で一番勇ましかつたのは、誰でせうか。・・・あの十才にしかならない艦長の子ではないでせうか。」と締めくくっています。

出典1:THE LIFE OF HORATIO LORD NELSON
BY ROBERT SOUTHEY
CHAPTER V 外部リンク

出典2:Casabianca  外部リンク
THE POEMS OF FELICIA HEMANS.
COMPLETE COPYRIGHT EDITION.

第八十七 カサビアンカ 外部リンク
スヰントン第四読本直訳講義. 下
平井参 (三郎) 訳 杉本書店 明22,24

注:菊池寛の訳には、誤訳があります。
艦長の子 p127

「菊池寛訳」外部リンク
(フランスの)船の数は、皆で十七でしたが、その中の四隻はフリゲイト型といふ三層甲板の大軍艦です。その中でも一番大きいのは、ロリアン号といつて、大砲を百二十門備へた軍艦です。
・・・・・
英吉利の軍艦は、フランスの軍艦よりも、三隻少く、それにどの軍艦も七十二門以上の大砲は積んでゐないのです。
 

菊池はフランスの艦船について、「その中の四隻はフリゲイト型といふ三層甲板の大軍艦です。」と書いていますが、フリゲイト型は、大軍艦ではありません。当然、ロリアン号は、フリゲイト型ではなく、戦列艦の旗艦です。これは次の英文を読み違えたのだと思います。

THE LIFE OF HORATIO LORD NELSON
CHAPTER V 外部リンク
They had thirteen ships of the line and four frigates,
carrying 1196 guns and 11,230 men. The English had the same number of ships of the line and one fifty-gun ship, carrying 1012 guns and 8068 men. The English ships were all seventy-fours; the French had three eighty-gun ships, and one three-decker of one hundred and twenty. 

(フランス艦隊)は、13隻の戦列艦と4隻のフリゲート艦があり、砲門は全部で1196門、乗組員は11230人であった。イギリス艦隊は、フランスと同じ数(13隻)の戦列艦と、50の砲門を持つ艦が一隻、砲門は全部で1012門、乗組員は8068人であった。
 しかも、イギリスの(戦列)艦は全てが74門艦であったが、フラン(戦列艦)は、3隻は80門艦であり、1隻は3層甲板艦で、120の砲門があった。

 菊池は、下線部の前半の「13隻の戦列艦と4隻のフリゲート艦」ということから、後半の下線部の、「フランスは、3隻は80門艦であり、1隻は3層甲板艦で、120の砲門があった。」というのを、フリゲート艦の4隻と勘違いしたものと思われます。実際は、イギリスの戦列艦は13隻全部74門艦であったが、フランスは9隻は74門艦で3隻は80門艦で1隻は3層甲板の120門ある大軍艦であったということになります。

 また、菊池は、「英吉利の軍艦は、・・・七十二門以上の大砲は積んでゐない」と書いていますが、七十四門の誤りです。しかし、なぜ74を72と間違えたのか? 腑に落ちない点ではあります。

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赤い鳥04.06p30-37童話『子供が猿になつた話』水島爾保布 外部リンク

同話:チベットの昔話34『白銅の壷』
アルバート・L. シェルトン 西村正身訳 青土社

類話:Type1592=J1531.2 鉄を食べる鼠
パンチャタントラ1.21『不思議と不思議』 外部リンク
カリーラとディムナ1.13『商人と不実な預かり人』
ラ・フォンテーヌ寓話09.01『不実な預かり手』 外部リンク
トルストイ少年少女読本12『二人の商人』外部リンク
日本昔話通観670『吐き出せ蛙』

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赤い鳥04.06p38-41童話『弓試合』久米正雄 外部リンク
新しい童話3 リツキ・チツキ・テビー『弓試合』外部リンク
久米正雄・小島政二郎 共著  春陽堂
 
注:「新しい童話3」の「標題」には、『弓試合は今昔物語・古今著聞集から選択した。』とありますが、下記の「大鏡」が出典です。どうもミスリードをしているように思えます。 外部リンク
 また、「新しい童話3」は、久米と小島の共著となっていますが、久米は名前を貸しただけで、「弓試合」は小島の代作の可能性があります。

出典:大鏡 太政大臣道長
注:この話は、「大鏡  太政大臣道長」の次の4つのモチーフからなっています。
motif1:詩歌の上手  外部リンク
motif2:肝試し 外部リンク
motif3:人相見 外部リンク
motif4:弓試合 外部リンク
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赤い鳥04.06p52-59童話『大当てちがひ』樋口やす子 外部リンク
鈴木三重吉童話全集3.34『おぢいさんと三人のわるもの』(不明) 外部リンク

注:この話は3つのモチーフから構成されています。

motif1 老人は3人の悪者に、馬を驢馬を言われ馬を手放す。
パンチャタントラ3.3『婆羅門僧と山羊』外部リンク
世界童話大系. 第10巻(印度篇) 世界童話大系刊行会 大正14
ヒトーパデーシャ4.5『梵僧と山羊』外部リンク
大聖サルマ物語 : 印度寓話  酒井鋒滴 訳註 大正1
カリーラとディムナ4.2『騙された修道者』
オイレンシュピーゲル68
サキャ格言集150
冗談とまじめ632『男が羊を投げ捨てたこと』

motif2 老人は二匹の山羊を用意して山羊がお使いしたと思わせる。
Type 1539 賢い者と騙されやすい者。K131.1 兎の郵便配達。
スペイン民話集『二人のコンパードレ』 エスピノーサ 三原幸久編訳 岩波文庫

motif3 袋の中の老人は、お姫様と結婚できると言って、羊飼いと場所を交換する。
Type1737 袋の中の聖職者は天国へ行く。
K842 トリックスターは、天国に行きたくない(または、お姫様と結婚したくない)と叫び続ける。騙されやすい人は、喜んで彼と入れ替わる。
フランス民話集『粉ひきと領主』 新倉朗子 岩波文庫
グリム61『水のみ百姓』
昔話インデックス0438『俵薬師』
昔話インデックス0441『馬の皮占い』

類話:The Cunning Shoemaker 外部リンク 
(Sicilianische Mahrchen.) 
 THE PINK FAIRY BOOK by Andrew Lang
motif1 お金を出す驢馬
motif2 人を生き返らせる楽器
motif3 お使いをする犬
motif4 袋の中の場所の交換

注:「大当ちがひ」のmotif1 は、「騙される者」の話で、「騙す者」の話で使われるのは不自然です。もしかすると、元のモチーフと差し替えられたのかもしれません。元のモチーフとしては、The Cunning Shoemaker のmotif1 の「お金を出す驢馬」のような話が考えられます。

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赤い鳥04.06p96-98『「金の輪」を読んで感じたこと』秋田雨雀 外部リンク
 私は近頃小川未明君の童話集「金の輪」を読んだのでそれについて短い感想を記して見度いと思ふ。小川君には、前にも二三の童話集があつたやうに記憶するが近来、一般の社会が、童話に対して注意を向けるやうになつてゐる時代だけに、私は特に興味をもつて読んだ。小川未明君は、現今の日本の文壇でユニツクな地位を持つてゐる人で、そして新らしい童話の創作者としては唯一人の先達者であると言つてもよい。勿論私達の時代の前にも童話作者として巌谷小波氏のやうな人もあるが、巌谷小波氏の童話に対する考へ方と、私達の時代の童話に対する考へ方には、可成広い溝が横たはつてゐるやうに思はれる。勿論先駆者としての歴史的な功績は認めなければならないが。
 童話に対する考へ方の相違といふ事は単に童話の描写の仕方や、技巧によるのではなく、もつと根本的な思想の上から来るものであるといふ事は、私達の始終主張してゐるところである。童話作者としての小川未明君は、確かに第一人者であるといふ事だけは、事実であると思ふ。小川君の文壇に於ける特色は、童話に於いても、矢張り非常に著しいものとして表れてゐるやうである。たとへば、小川君の自然に対する見方、人生に対する考へ方といつたやうなものに、非常に神秘的なものがあつて、それが、どんな小さい作物の中でもよく現れてゐる。或は余り多く現れ過ぎてゐはしないかと危まれる位である。然し私は、童話の一番の面白い要素を、単に、神秘的であるといふやうな事に帰するやうな見方には反対したいものである。その理由は、後で説明する機会があるかも知れないが、私は、童話といふものゝ本当の生命は、「無邪気であるといふこと」「自由であるといふこと」それから「合理的であるといふこと」が、一番必要であるといふ主張を持つてゐるものである。童話に就いて、合理的であるなどと云へば、人は変に思ふかも知れないが、私は人間のイマジネーシヨンといふものはどんなに複雑に働いてもよく見るとそれは極めて合理的なものであるといふ信念を持つてゐる。従つて私は、少年の読物としての神秘的な要素はそれがこの合理的であるといふ要素を欠くものであつてはいけないといふ考を持つてゐる。いけないと言はないまでも、なるたけ避けたいと思つてゐる。ヨーロツパの童話を読んで見て、可成な不合理や不思議が行はれてゐるやうに思ふ人があるかも知れない。併しヨーロツパの童話の中にははつきりした約束された二つの存在があつてそれに絶対の力が課されてゐる。それは即ち、
 一、神の概念
 一、魔神(魔女等)の観念
である。この二つの観念があるために、ヨーロツパの童話はどんな不合理さうなどんな不思議さうな出来事が生れて来ても、約束された事件以外は、非常に合理的で心理的である。これは余程注意して見なければならない、一つの特色であると思ふ。
 小川未明君の童話の一部の物には、大人のセンチメント以外には感ぜられないやうな、又大人の世界から見てのみ面白さうな、神秘的な材料を主材として、それに何等の塩梅も加へずに子供に与へてゐるものが二三あるやうに思はれる。たとへば、「牛女の話」、「薬売り」、「犬と人と花」、「お爺さんの家」のやうなものが即ちそれである。この中でも「薬売り」のやうな物語は、大人の読物として面白い物であるが子供の読物として与へるにはあまり適当してゐない物でないかと思ふ「牛女」及び「犬と人と花」「お爺さんの家」なぞはそれを読んだ少年に一種の困惑の感覚を与へないだらうか。これは童話の作者として余程注意しなければならないものではないかと思ふ。童話の作者が童話の材料及び技巧に対して充分に吟味をして与へると云ふ事は、他の芸術よりも余程必要であると私は始終考へてゐる。西宮藤朝君であつたか、子供に大人が人生の善悪を選択取捨して与へる必要がないといふ事を言はれたやうに記憶するが、私はその点では、今日の童話が大人が次の時代の同じ人類に与へる性質のものならば、適当に取捨選択をして与へるこそ人類の自然な本能でもあり欲望でもあると思ふ。その点で、児童に与へる芸術の作者ほど責任の重いものはないと思ふ。さうかといつて、私は、児童に対して、何事も「知らしむる勿れ。」といふやうな道徳的な観察点から出発するものではない事は無論である。
 かうは言ふものゝ、「百姓と蛇」「子供の時分の話」なぞを読んでも「金の輪」を読んで見ても、その作者の持つてゐる気質が、非常によく現れれゐる。「百姓と蛇」は、恐らくある地方の伝説を土台にしたものであらうと思はれるが、かういふ伝説は日本の各地にいろ/\な形でたくさん散在してゐるやうであるが、小川君が創作の童話でかういふ伝説にてをつけられてゐるといふ事は可成面白い事だと思ふ。「牛女」なぞも或は作者の地方の伝説から来たのかも知れない、さう見るといくらか見直される点もないではない。「金の輪」は、軽い明るい神秘さを持つた作物で、読んで見てこの童話集の中で、一番快感を与へられるものである。ある少年が、町へ出て遊んでゐると、今まで見た事もないやうな一人の子供が、二つの金の輪を廻し乍ら行くのを見た。そして間もなくその少年は熱病を患つて死ぬと云ふ短い話であるが、この作者のセンチメントと気品とが一番はつきり現れてゐる。
 次ぎに普通のヨーロッパ風の童話の形を持つたものとしては「蝋燭の貝殻」「黒い塔」「北海の白鳥」なぞもあれば又寓意を含んだ童話には「誰が一番悪いか」「酒倉」「金持と鶏」なぞがある。「誰が一番悪いか」は三人の兄弟の三つの性格を描いたもので、それには今日の社会に於ける三種類の人生観を描出して来て、それに対して作者の批判を与へてゐるとも見られるやうなものである。一人の子供は、物を貰ふと、人にもやらず、人の物も取らずに黙つてゐる、そして、他の二人の兄弟が何にも持つてゐない頃になると、自分の物を見せびらかす。一人は、自分の持つてゐる物をいつでも人に取られてばかりゐる。もう一人は、自分の物を食べてしまつてから他人の物をも取つて食べるといふやうな性質を持つた子供である。作者は人の物も取らず、人にもやらないで、人の持つてゐない時に、自分の物を見せびらかす子供を最も悪い子供であつて、寧ろ必要に応じては、他の物をも奪ひ取らうとする性質を、寧ろ無邪気で善良なものであると見てゐる。私はその点では、作者に全く同意を表するものである。「酒倉」はある大将が敵国に攻入つた時に、敵国の少年の心を自分等の心持と等しく邪念のあるものと思ひ誤つて、子供の教へたのに従はないで、反対に毒を入れた酒倉の酒を飲んで死んで了ふといふ事を書いたものである。之は童話のテーマとして中々面白いものであると思ふ。「金持と鶏」は、ある金持が珍らしい鶏を手に入れようと思つて、最初に非常によく卵を生む三羽の鶏を買つて来た。鶏は毎日/\よく卵を生んだ。金持はそれを友達に見せたところが、友達はそんな鳥はちつとも珍らしくないと言つたので、今度は闘鶏に得意な非常に強い鶏を手に入れて自慢にしてゐた。ところがその鶏は非常に乱暴な鶏で他人の畑を荒したり子供の足をつゝいたりするので、ある日銃猟家のために撃たれて死んで了ふといふ事を書いたものである。この童話は作意がはつきりしてゐるけれども、作者の他の作物に比較して非常に芸術味の少ないものだと思ふ。矢張り寓意を持つた作物の中には、「馬を殺した烏」といふのがある。一羽の烏が鴎に欺かれて鳩にならうとしたが、失敗した腹癒に、牛と馬とを欺かうといふ事を企んだが、牛は中々烏の言ふ事を聞かないけれども、馬はとう/\烏の云ふ事を聞いて、背中に荷を積んだ儘、広い海を飛び越えようとして死んで了ふと云ふ事を描いたものであるこの物語は描写としては余り成巧してゐないと思ふけれども、烏が他の鳥に欺かれた復讐を、他の動物、馬や牛にしようと思つた事は、寓話として大変成功したものだと思ふ。
 この他、童話ともつかず、寓話ともつかないやうな「汽車の中の人々」「月夜と少年」のやうな短い文章もある。「汽車の中の人々」は、正雄といふ少年が岡の上に登つて遠い土地を見渡してゐる中に、伯母さんの家へ行きたくなつて、汽車に乗つて出発したところが、途中で汽車を乗り過して、知らない伯父さんの家に一夜を明すといふ事を書いたものである。「月夜と少年」は、二人の少年が同じ商家に雇はれて、ある月のいゝ晩にめい/\に自分の故郷や、自分の姉さんや、お母さんの事を思ひ出すと云ふ事を書いたものである。前者は短かい紀行文のやうな感じのされるものであるが、それでもこの作者の持つてゐる、テンダーな感情と、神秘的な幻想とがよく現れて、一篇の詩を読むやうな感じがする。「月夜と少年」も矢張り美しい詩の持つてゐるやうな芸術的な筆触を感ずる事ができる。 これを要するに、「金の輪」の中には、二つの新しい童話のいゝ芽が萌え出でかけてゐるやうに思はれる。一つは小川君の持つてゐる芸術的特色の一つである、神秘主義が、この国土特有の伝説を借りて形を表さうとしてゐることで、もう一つは、小川君の人生観社会観といつたものを童話の形を借りて現さうとしてゐることがそれである。この二つの要素がどういふ風に発達して行くかといふ事は、私に取つては可成り興味のある問題であると思ふ。唯最後にこの作者に注意をしたい事は、描写をなるたけ単純にして、幼年者に対して困惑の感情を起させないやうにして貰ひたいといふことである。これは私の読んでゐながら感じた事の一つであるから、特にこゝに記して置きたいと思ふ。(四月六日夜記)

「金の輪」の発行所、定価等の詳細は巻頭の広告につき御覧下さい。(記者)

金の輪 小川未明  外部リンク

類話:
グリム童話(子供のための聖者物語)203『バラ』
 昔あるところに、貧しい女の人がいました。この女の人には、二人の子供がいました。弟の方は、毎日森へ薪を取りに行かなければなりませんでした。ある日のこと、男の子が長いこと薪を探していると、小さな子供が現れました。その子はとても力があり、薪を拾い家に運ぶのを、一生懸命手伝ってくれました。しかし、その不思議な子供は、あっという間に、姿を消してしまいました。
 男の子は母親にこのことを話しました。しかし、母親ははじめはそれを信じませんでした。そこで、男の子は一本のバラを持って来て、これは、その美しい子がくれたバラで、このバラが大きく開いた時に、再びやって来ると言っていた。と母親に話しました。そこで母親はそのバラを水にいけました。
 ある日のこと、男の子がベッドから起きて来ませんでした。母親がベッドへと行ってみると、男の子は死んでいました。しかし、男の子はとても幸福そうに見えました。そしてその日の朝、あのバラは大きく開いたのでした。

注:キリスト教の聖者物語では、「死」とは、天国に召される素晴らしい救済という思想があります。また、神の深淵なる考えによる死という考え方もあります。

Type 759 立証された神様の正義

Cheriton『天使によって示された神の裁き』
ある隠者が、神の摂理を教えてもらいたいと神様にお祈りしていた。すると、天使が老人の姿で現れてこう言った。
「さあ神父たちの所へ行って、彼らのもてなしを受けることにしよう」
彼らは、洞窟にある修道士の独居房にやって来た。扉をノックすると、神に仕える年老いた男が現れ、快く彼らを招き入れた。そして、祝福を与えると、彼らの足を洗ってやり、元気がでるようにと食べ物を用意した。彼らは、一晩そこに厄介になった。朝、老人は礼を尽くして彼を送り出した。しかし天使は、自分たちが食べて空にした器を秘かに持ち去った。隠者はこれに気付いて一人呟いた。
「こんなに心から歓待してくれた、この神に仕える老人に対して、なぜ、こんな仕打ちをするのだろう? 一体なぜ、彼は器を盗ったのだろう?」
二人が立ち去ってしまうと、老人は、息子に二人の跡を追わせた。
「どうか器を返して下さい」
すると天使はこう答えた。
「あれは人にやってしまったのだが、彼は先に行ってしまった。一緒に行って取り戻そう」
息子は、天使と隠者の跡に従った。すると、天使は彼を崖から突き落として彼を殺してしまった。隠者はこれを見て、大変驚いて叫んだ。
「翼ある者よ。ああ、彼は何てことをしたのだ。器を盗んだだけでは足らずに、彼の息子まで殺すとは!」
それから二日後、彼らは、二人の弟子と暮らしている、修道院長の小宅を訪れた。彼らが扉を叩くと、修道院長は、「何処の誰で、何しに来たのか?」と聞かせるために、弟子の一人をつかわした。そこで彼らはこう答えた。「私たちは、祝福を賜ろうと、遙々やって来たのです」しかし、修道院長は断った。そこで彼らはこう言った。
「休みたいので、今晩泊めて下さい」
「出ていってくれ」
修道院長はそう答えた。しかし、彼らは懇願し続けた。そしてついに、不承不承ではあったが、修道院長は彼らを受け入れた。彼らは、少し明かりをくれないかとお願いしたが、修道院長は何も与えてくれなかった。彼らは、弟子の一人に水をもらいたいとお願いした。すると彼は、秘かに、わずかばかりの食べ物を添えて彼らに与え、このことは修道院長に知られないようにとお願いした。朝、天使は弟子の一人にこう言った。
「院長に贈り物を持ってきているので、我々を祝福をしてくれるように彼に頼んで下さい」
これを聞いた修道院長はすぐにやって来た。そして天使は彼に例の器を与えた。すると、隠者は怒って天使にこう言った。
「私から離れて下さい。これ以上あなたと一緒に行動したくない。あなたは、信心深い男から器を盗み、彼の息子を殺害した。そして今度は、神をもおそれず、仲間に慈悲を与えないような、不道徳この上ない男に、その器を与えた」
すると、天使が隠者にこう言った。
「あなたは、神の裁きを知りたいと願いませんでしたか? 私はそれをあなたに示すために下界に使わされたのです。あの老人から奪った器は、独居房に住む聖なる者には相応しくない悪い品物だったのです。私が彼の息子を殺したのは、あの息子が翌晩、父親を殺そうとしていたからなのです。この器なのですが、これは悪い品(高価な品)だったのです。これをこの不道徳な男に与えたのは、彼の没落を早めるためだったのです」
天使はこのように語ると、姿を消した。そして、隠者は、悟ったのであった。時に、神の裁きには理不尽と思えることがあるが、しかし本当は正しいということを。

グリム童話(子供のための聖者物語)208『おばあさん』 外部リンク

不思議な少年 マーク・トウェイン 外部リンク

雨雀は、この評論で、

ヨーロツパの童話を読んで見て、可成な不合理や不思議が行はれてゐるやうに思ふ人があるかも知れない。併しヨーロツパの童話の中にははつきりした約束された二つの存在があつてそれに絶対の力が課されてゐる。それは即ち、
 一、神の概念
 一、魔神(魔女等)の観念
である。この二つの観念があるために、ヨーロツパの童話はどんな不合理さうなどんな不思議さうな出来事が生れて来ても、約束された事件以外は、非常に合理的で心理的である。これは余程注意して見なければならない、一つの特色であると思ふ。


と書いています。そして、金の輪について、
 
「金の輪」は、軽い明るい神秘さを持つた作物で、読んで見てこの童話集の中で、一番快感を与へられるものである。・・・・この作者のセンチメントと気品とが一番はつきり現れてゐる。
 
と書いています。未明が「金の輪」を、どのうような意図で書いたかは、わかりませんが、類型的には「聖者物語」と同じです。
 雨雀は、金の輪について、「軽い明るい神秘さ」「センチメントと気品」と高い見識を示していますが、「神の概念」は見出していないようです。

2022年7月15日金曜日

赤い鳥第4巻第5号

赤い鳥04.05 大正9年(1920)5月1日発行 4月5日印刷納本
目次 

赤い鳥04.05 大正9年(1920)5月1日発行 4月5日印刷納本

(赤い鳥五月号) (第四巻第五号)

たんぽゝ(表紙、石版)梟(口絵、水絵) 清水良雄
神后皇功(口絵、黒白画) 水島爾保布 [神功皇后]
 大きい兄さん(推奨自由画) 中村高樹
 私のをぢさん(推奨自由画) 小田敏
 俣野の顔(推奨自由画) 坂口庄司
 岡部さんの顔(推奨自由画) 轟浪子
月夜の家(曲譜) 成田為三
風よ吹け吹け(童謡) (2) 北原白秋
猿の手(童話) (4) 鈴木三重吉
おねぼけ叔父さん(童話) (12) 有島生馬
羊(童謡) (18) 西條八十
名人源眤(みなもとノむつる) (20) 久米正雄
ブロオニイ(少年少女劇) (24) 久保田万太郎
春の風(童謡) (32) 柳澤健
神功皇后(歴史童話) (34) 鈴木三重吉
いたづら人形(童話) (42) 佐藤春夫
 赤い靴(入選童謡) (42) 北原白秋選
 小川のかにさん(推奨童謡) (50) 小田切出海
 夕やけ(推奨童謡) (51) 永田金三
 紙雛さま(入選童話) (52) 交野なつ子
馬の国(童話) (56) 野上豊一郎
若いコサツク騎兵(童話) (62) 小島政二郎
木の葉の小判(童話) (68) 江口渙
金糸鳥物語(童話) (74) 鈴木三重吉
象と芥子人形(童謡) (78) 西條八十
 天狗のお仲間(伝説) (80) 鈴木三重吉選
 頭刈り(模範綴方) (82) 鈴木三重吉選
 夕やけ(自作童謡) (83) 北原白秋選
綴方の研究、少年 (90) 鈴木三重吉
少女用図書特選 (90) 鈴木三重吉
さし絵飾り絵 清水良雄 深澤省三
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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。
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赤い鳥04.04p04-13童話『猿の手』鈴木三重吉
赤い鳥04.05p04-11童話『猿の手』鈴木三重吉
赤い鳥04.06p04-15童話『猿の手』鈴木三重吉
鈴木三重吉童話全集06.26『猿の手』(イギリス、ウヰリアム・ジェーコップス)

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赤い鳥04.05p20-23童話『名人源眤』久米正雄
名人源眤(みなもとノむつる) 外部リンク
現代文学読本 巻上 吉沢義則 編 東京修文館 大正13

出典:古今著聞集 第九巻 弓箭 第十三 348・349
348 眤の兵衛尉が鯉を捕る雎鳩を殺さず射た事  外部リンク
349 上六大夫が「とう」を射た事 外部リンク

注:「とう」は、朱鷺・鴇(トキ)のことです。 古今著聞集の話を繋げて一つの物語とするのは、赤い鳥3.3『京都だより』赤い鳥3.4『笛』 と同じ手法なので、小島政二郎による代作の可能性が考えられます。
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赤い鳥04.04p14-19少年少女劇『ブロオニイ』久保田万太郎
赤い鳥04.05p24-31少年少女劇『ブロオニイ』久保田万太郎
赤い鳥の本第5冊『ふくろと子供』 外部リンク
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赤い鳥04.02p42-47童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.03p58-63童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.04p36-43童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.05p42-49童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.06p42-49童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥05.01p52-59童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥05.02p42-49童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥05.03p46-53童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
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赤い鳥04.05p56-61童話『馬の国』野上豊一郎
赤い鳥04.06p60-63童話『馬の国』野上豊一郎
赤い鳥05.02p62-67童話『馬の国』野上豊一郎

出典:PART IV. A VOYAGE TO THE COUNTRY OF THE HOUYHNHNMS.
外部リンク 
GULLIVER’S TRAVELS into several REMOTE NATIONS OF THE WORLD
BY JONATHAN SWIFT, D.D.,

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赤い鳥04.05p62-67童話『若いコサツク騎兵』小島政二郎

出典:MARBOT AND THE YOUNG COSSACK  外部リンク
The all sorts of stories book
by Mrs. Lang ; edited by Andrew Lang

注:上記はアンドルー・ラングの編集による本ですが、Fairy Book シリーズの後に書かれた、ラング夫人の作品です。
鈴木三重吉が訳したラングの本は、Fairy Book シリーズで、文字通り妖精物語ですが、この本は、実話などが多く含まれています。この本の翻訳の権利は小島政二郎が持っていたのかもしれません。(権利というのは、公的なものではなく、赤い鳥関連の作家や編集者間の私的な取り決めのようなものを考えています)

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赤い鳥04.05p68-72童話『木の葉の小判』江口渙
赤い鳥05.01p82-87童話『木の葉の小判』江口渙

出典:狐に贋て欺き狐の為に死する事
古今雑談思出草紙 東随舍

注:「赤い鳥の本10 木の葉の小判 標題」に、話の出所について次のように書かれています。
「木の葉の小判」も、私が十歳ぐらゐのときに聞いたお話であるが、果たしてどこで誰から聞いたのだつたか、その点をはつきり覚えてゐない。
江口は、「古今雑談思出草紙」を子供の頃、誰かに話してもらったということなのだと思います。話の内容が少し違っているのは、話をした人が変えたのか? 江口の再話の際に変わったのか? 色々な可能性が考えられます。 

古今雑談思出草紙 東随舍 
慶応義塾大学   外部リンク
注:Google books の和書によくあるのですが、最後から最初に向かって逆に表示されます。
  狐に贋て欺き狐の為に死する事
宝暦末年の頃四ツ谷新宿のほとりに
岩田郷祖軒と言へる老士釼術指南
をして住居せり其術は至れりと
いへども生質(せふしつ)文盲にして高慢強
人愛(ひとあひ)のなき者なれば贔屓薄くして
用やる人少なし門弟も多からず豊
ならて世を送れり或時用事ありて

外部リンク
本所辺に至り戻れる道柳原の床見世にて狐の尾是有を見て老人
の事なれバ寒気をしのぐ襟巻にハ
畢竟のものなりと買求め袂に入て
筋違橋(すじかいばし)まて来りしが老足労(ろふそくつか)れ
帰家(きか)にものうく幸ひ辻にたれる
駕籠を雇ひて打乗戻れる頃は
早黄昏なり去(さる)にても駕籠の内にて
心よく眠りつゝ立戻るに市ヶ谷

外部リンク
田町を過牛小屋(うしこや)と言へる辺(へん)にて跡に
駕籠舁(かく)男の先にたてる者に密なる
声にて夫/\見よといふにより
返りて見るやうすにて成程と答へ
て過(すぐ)るをふと目覚て何をかいふやと
郷祖軒考がへ見るに最前途中にて
調へたる狐の尾袂に入置しが袖口
より出(いで)て駕籠の垂より半(なかば)下がれる
を見て狐の化たると恐るゝ体に

外部リンク
違ひなしと察して頻りに尾を動
かしあるひは引入またハ下げなどする
度に駕籠舁どもつふやきて恐るゝ
体なりしがたまり兼てや駕籠舁
ども言へるは我等遠方の者どもなり
夜に入ては難儀なる間(あいた)何卒是
より下りてたべ賃銭はいか程も思召
次第給われと言ふ郷祖軒聞て
尤なれとも我等住所は先に約束せし

外部リンク
新宿の脇三光院稲荷のかたはらなり
今少しの道法(みちのり)なり参るべしといふに
尚更気味わるくひたすら是にて
御暇願ひ申なりと歎き詫るにぞ
左程夜に入を厭わば是より歩行
せんと駕籠を下りて後渠等に
向ひて定めの賃銭三百銅なれども
遣わさん事いと易し去ながら其元
達が実儀有心を知れるによりて

外部リンク
夫よりも能(よき)價を取せんとかねて
駕籠の内にて拵へ置し十二銅の包を
弍ツ取出しつゝ此鳥目纔(わつか)に十弐銭
なりといへども入用の節は一銭のこして
其用にあてなば一夜の内に元のごとく
あへていつまでも絶ず泉の如くなるべし
随分と信心せよ日あらずして富貴と
なし遣わさんと一包つゝ手に渡して
狐めかして口早に述たる時両人ハ大地

外部リンク
に平伏して有難しと押戴きて
尊敬し参拝なし駕籠振かたげて
足早に立戻りけれ郷祖軒は獨り笑
ひて家路に戻りて家内近隣の
心安き者にも此始終物語り狐と
思ひて恐れしに付込其虚に乗し
両人を偽り欺き廿四銅の賃にて
下料なる駕籠に乗と言ひ神のごとく
尊敬されしは近頃の珍説なりと

外部リンク
笑ひ興したる也しが其翌日よりして
郷祖軒俄に物狂わしくなり大音に
罵りけるやふは其方常/"\仁の心
薄く非義非道なる心から纔の代
を持て妻子をはごくむ世渡り業(わざ)
の有中にかれら程世に貧しく其辛
苦片時も易き事なし心有らん人は
極めの賃銭の外にも酒呑などゝ餘分
の代をも恵みあたへぬべき所に狐なりと

外部リンク
恐るゝ其虚に乗し偽り欺きぬ[る]
心底不仁非道此上なし人間ならぬ
我等さへ此理(り)を辧へ知るに情なき
振舞なり思ひ知れと叫びつゝ狂
ひ廻れるは必定狐の取付たるべしと
祈祷をなせしが露験(つゆしるし)もなうて後に
はうつけたる者となりて唯生たる
と言ふ計りにて年久敷なからへ類
族にも見限られしやのたれ死

外部リンク
に死したりけるとぞ



2022年7月1日金曜日

赤い鳥第4巻第4号

赤い鳥04.04 大正9年(1920)4月1日発行 3月5日印刷納本
目次

赤い鳥04.04 大正9年(1920)4月1日発行 3月5日印刷納本

「赤い鳥」四月号  第四号第四巻[第四巻第四号]
 
少年騎士(表紙、石版) 清水良雄
魔法の金(口絵、水絵) 清水良雄
金糸鳥物語(口絵、凸版) 矢部季
 はな(推奨自由画) 田中あさえ
 朝鮮の田舎(推奨自由画) 酒井堅信
春の日(曲譜) 成田為三
赤い鳥小鳥(曲譜) 成田為三
 雪のふる夜(推奨曲譜) 瀬野作平
真夜中(童謡) (1) 北原白秋
猿の手(童話) (4) 鈴木三重吉
ブロオニイ(少年少女劇) (14) 久保田万太郎
謎(童謡) (20) 西條八十
大盗坊(童話) (22) 小島政二郎
金糸鳥物語(童話) (28) 鈴木三重吉
海のあなた(童謡) (34) 柳澤健
いたづら人形(童話) (36) 佐藤春夫
 野鼠(入選童謡) (36) 北原白秋選
 まひ/\つぶろ(推奨童謡) (44) 冬木国太郎
 月のフートボール(推奨童謡) (45) 野村清三
 窓(入選童話) (46) 近藤喬
白狐の話(童話) (48) 豊島与志雄
野の郡長さん(童話) (54) 秋田雨雀
おもちやの馬(童謡) (58) 北原白秋
新かぐや姫(童話) (63) 楠山正雄
白い鳥(歴史童話) (70) 鈴木三重吉
怪我(童謡) (80) 西條八十
 狐と大蛸(伝説) <火よけの劔><七桶岩> (82) 鈴木三重吉選
 まはり家(自作童謡) (84) 北原白秋選
 蟹の子供(模範綴方) (86) 鈴木三重吉選
 少年少女用図書特選 (93) 鈴木三重吉
 童話作法、綴方研究 (93) 鈴木三重吉
さし絵飾り絵 清水良雄
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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。

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赤い鳥04.04p04-13童話『猿の手』鈴木三重吉
赤い鳥04.05p04-11童話『猿の手』鈴木三重吉
赤い鳥04.06p04-15童話『猿の手』鈴木三重吉
鈴木三重吉童話全集06.26『猿の手』(イギリス、ウヰリアム・ジェーコップス)

出典:
THE MONKEY'S PAW 外部リンク
THE LADY OF THE BARGE AND OTHER STORIES By W. W. JACOBS
BOOK 2

注:三重吉は、話を終えた後に、次の一文を入れています。
(曹長は、どこまでも人をかついだのです。だれかが戸口をトン/\叩いたといふのは、無論二人の気のせいで、ことによると実さいに鼠がかた/\いはせた音がさういふ風に聞えたのでせう。たゞ息子が機械にはさまれて死んだのと、二千円のお金が這入つたことだけは間違ひのない事実です。)
童話集「少年王」昭和4年 以後はこの一文は削除されています。

類話:
Type750A 願い事。キリストとペテロは、もてなしてくれた貧しい農夫には三つのよい願いを与える。一方金持ちには、三つの悪い願いを与える。

J2071 愚かな三つの願い。 三つの願を叶えてやると言われる。愚にもつかぬことにその願いは使い果たされる。

パンチャタントラ5.08『四本の腕を持つ双頭の織工』
グリム金田100『貧乏人とお金持ち』87
日本昔話通観0016『三つのかなえごと』
イギリス民話集『三つの願い』
ペロー童話集『愚かな願いごと』
フランス民話集『神さまと木靴つくりと欲ばり女』
ペリー668『三つの願い』

注:通観はグリムとほぼ同じ話です。おそらく明治以後、グリムを基に語られたのだと思います。

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赤い鳥04.04p14-19少年少女劇『ブロオニイ』久保田万太郎
赤い鳥04.05p24-31少年少女劇『ブロオニイ』久保田万太郎
赤い鳥の本第5冊『ふくろと子供』 外部リンク

出典:
The Brownies 外部リンク
THE BROWNIES AND OTHER TALES. 
BY JULIANA HORATIA EWING.

注:先に赤い鳥に掲載された、久保田万太郎作の「白い鳥の話」「指輪の王子」は、Andrew Lang の翻訳なので、鈴木三重吉の代作の可能性が考えられますが、「ブロオニイ」は、万太郎自身の選択による翻訳作品と考えられます。
 これまで、万太郎は海外の作品からヒントを得て創作したとされてきたようですが、「ブロオニイ」はヒントを得たというよりも、翻訳・翻案であると言えます。

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赤い鳥04.04p22-27童話『大盗坊[おほどろばう]』小島政二郎

注:この話は4つの話から構成される。

モチーフ1 袴垂が藤原保昌の衣を奪おうとするが、保昌に威圧され屈服する話。
今昔物語25.07『藤原保昌朝臣値盗人袴垂語』 外部リンク
宇治拾遺物語02.10(28)『袴垂合保昌事』 外部リンク

モチーフ2 袴垂が裸になって死んだふりをして、油断した者を殺して衣を奪う話。
今昔物語29.19『袴垂於関山虚死殺人語』 外部リンク

モチーフ3 盗賊に押し入られた明法博士は、床下に隠れて難を逃れるが、全てを盗まれる。明法博士は盗賊が帰る背に、罵詈を浴びせて盗賊に殺される。
今昔物語29.20『明法博士善澄被殺強盗語』 外部リンク

注:モチーフ3は、「赤い鳥3.4『笛』小島政二郎」と正反対の話。
盗賊に押し入られた博雅三位は、床下に隠れ難を逃るが、全てを盗まれる。博雅三位は笛が残ったことを喜び、笛を吹くと、笛の音を聞いた盗賊が改心する。
古今著聞集 巻第十二 偸盜 第十九 外部リンク

モチーフ4 藤原保昌の弟の保輔が盗人であった話。
宇治拾遺物語11.02(125)『保輔盗人タル事』 外部リンク
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赤い鳥04.01p04-13長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.02p04-13長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.03p38-47長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.04p28-33長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.05p74-77長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
童話全集03.38『かなりや物語』(フランス)

出典:THE ENCHANTED CANARY 外部リンク
(Charles Deulin, Contes du Roi Gambrinus. )Gambrinus [Cambrinus]の誤り
The Red Fairy Book Edited by Andrew Lang
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赤い鳥04.02p42-47童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.03p58-63童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.04p36-43童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.05p42-49童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥04.06p42-49童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥05.01p52-59童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥05.02p42-49童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫
赤い鳥05.03p46-53童話『いたづら人形の冒険』佐藤春夫

出典:PINOCCHIO 外部リンク
Carlo Collodi
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赤い鳥04.04p63-69『新かぐや姫』童話楠山正雄
[1.新かぐや姫][2.いけない子とおとなしい子][3.石の遍歴]ソログープの童話

参照サイト:
買って積んで、たまに読む。日記
新かぐや姫 外部リンク
悪い子とおとなしい子  外部リンク
石の遍歴  外部リンク
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赤い鳥04.04p82-83地方伝説その八12『火よけの劔』田中甘露
(十)火よけの劔 加賀の寺井といふところに昔、長右衛門といふ馬方がをりました。長右衛門は、寺井から三里ばかり離れてゐる鶴来といふところから、毎日寺井まで炭を運ぶのを仕事にしてをりました。或夕方いつものやうに炭俵を積み込んで、途中の三道山といふ山の側まで帰つて来ますと、向うから息子の一郎がのこ/\出て来て、「お父さん、お迎へに来たよ。何かお土産をおくれな」と言ひました。馬方は「おゝよく来てくれた。さあこれをお食べ」と言つて、お饅頭を一つやりました。一郎はすぐにもぐ/\と食べはじまました。と、思ふとそのうちに急に姿が見えなくなりました。馬方は「おや、もうどん/\先に帰つたのかな」と思ひながら、間もなくお家へ帰つて見ますと、一郎はお腹が痛いと言つて寝てをりました。馬方は「おい一郎、どうしたんだ。たつた今元気よく迎へに来た癖に」といひますと、一郎は「うゝん、迎へになんぞ行きやしない。お午(ひる)頃から痛いんだよ」と泣き/\言ひました。長右衛門は「何だお午頃から寝てゐた?ほゝう、それは変だぞ」と不思議に思ひながら、今しがたこれこれかうだつたぢやないかと、さつきのことを話しますと、一郎のお祖母(ばあ)さんがそれを聞いて「それぢや、この頃評判の、あの古狐にだまされたのぢやないかい」と言ひました。長右衛門も「成程なア」と言つて苦笑ひをしました。
 その翌(あく)る日の夕方、長右衛門はまた昨日のやうにてく/\と馬を追つて、丁度同じ山の側(そば)まで来ますと、今日も又一郎が迎へに来ました。長右衛門はいくら何でもそれが狐だらうとは思へないので、またお饅頭をやりますと一郎はすぐにもぐ/\食べ出しました。そして又いつの間にか、ひょいとゐなくなつてしまひました。帰つて聞いて見ますと、一郎はさつきからぢつと家(うち)にゐたと言ふのです。長右衛門は「おや、ぢや又騙されたのか」と悔しがつて「畜生、今度こそは見てゐろ」と思ひました。その翌る日、馬方は狐が化けて出るのを待ち構へながら、例の山のところまで帰つて来ますと、一郎が又ちやんと迎へに来ました。馬方は「おゝよく来てくれた。今日は荷が軽いから乗せて帰つてやらう」と言つて、一郎を無理やりに馬に乗せて、縄でくる/\縛りつけて、どん/\帰つて行きました。さうするとしばらくして一郎は「お父さん、しつこがしたいから下しておくれ」と頼みました。馬方は「何(なあ)にもうすぐだ」と言つて構ひつけませんでした。その内に一郎は馬の上でしく/\泣き出しました。馬方はそれでも平気でどん/\お家へ帰りました。と本当の一郎はちやんと家にゐるではありませんか。馬方は「ほら見ろ畜生、よく人を騙しやがつたなと言ひさま、一郎に化けた狐を、いきなり引きずり下し囲爐(ゐろり)の上へ逆に釣して、下から青い杉葉(すぎつぱ)でどん/\燻(くす)べ立てました。そして、それと一しよに大きな棒を持つて「やいざまを見ろ畜生、ゴツン。これでもかゴツン。いやこれでもか/\/\」と続けさまに力一ぱいぴし/\と撲りつけました。すると狐はとう/\正体を現して「どうぞ勘弁して下さい。もう、これから一生人を騙したりなぞ致しません。後生ですからどうぞ勘弁して下さい」と両手を合せて拝みました。
 そのときがらりと表の入口が開いて、日頃長右衛門が崇めてゐる即得寺の和尚さんがのこ/\這入つて来ました。和尚さんはその場の有様を見ると「これ/\長右衛門、私(わし)がいつも言つて聞かせてるぢやないか。生物を苛めるものではない。いゝ加減にもう遁がしてやりなさい」と言ひました。併し馬方は「いえ/\、こいつは二度も私を騙したんです。いやこれでもか/\ と又一しきりびし/\撲りつけました。狐は口からたら/\と血を流して「許して下さい、許して下さい」と一生懸命にあやまりました。和尚さんは長右衛門を押し宥めて、とう/\縄を解かせて遁がしてやりました。ところが長右衛門が後に即得寺の和尚さんにその時の話をしますと、和尚さんは変な顔をして、私はそんなことは一向知らないよと言ひました。それはつまり仲間の狐が即得寺から衣を借り出して和尚さんに化けて助けに行つたのでした。その狐は、衣を借りたお礼だと言つて、立派な剣をひとふり和尚さんのところへ持つて来ました。その剣は全く不思議な剣で、それがあるとどんなことがあつても火事に合はないと言ひ伝へてをります。現に先年寺井の大火事の時にも即得寺だけは焼けないで助かりました。この地方の人はその剣を火難よけの剣とよんでをります。(石川県能美郡小松町、田中甘露報)

[馬方は]本文は、[馬方ほ]
[いきなり] 本文は、[きなり]

注:「現に先年寺井の大火事の時にも即得寺だけは焼けないで助かりました。」というのは、「明治26年1893.12.24(午前4時能美郡寺井町で大火、144戸焼失。)」であると思われます。年表金沢の百年. 明治篇 外部リンク

類話:今昔物語27.41『高陽川狐変女乗馬尻語』 外部リンク

参考:第二章 信仰 41 狐塚(寺井町)PDFファイル 外部リンク
『図録 能美の石碑ものがたり』(能美ふるさとミュージアム発行、令和3年)書籍PDF

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赤い鳥04.04p83地方伝説その八13『七桶岩』中川純
(十一)七桶岩 ある時、相模の葉山の漁師が、村の堀内といふところの沖合の岩の蔭で、大きな/\大蛸を見つけました。漁師は手早く縄でもつてその蛸の体と足をその岩へぐるぐる縛りつけておいて、急いで家(うち)へ帰つて刃物を持つて来ました。そして蛸の足を一本切取りました。その一本の足でけで桶一ぱいに這入り余る位の大きな大蛸でした。漁師は大層慾張つた男でしたから、そのことを仲間のものには知らせないで、毎日一人で出かけては足を一本づつ取つて来て売りました。その内にとう/\七桶取つて、愈々今日は最後の一本を切るといふ日に、漁師はいくら大蛸でももう足一本になつてゐるのだから大丈夫と高を括つて、縄を切るより、頭ごと船の中へ引き入れますと、今まで死んだやうになつてゐた大蛸は、ふいに残りの一本足でくる/\と漁師の体を巻き込んで、ずる/\と海の中へ引き込んでしまひました。あとには空ツぽうの船だけがそのまゝ浪に揺られて残つてをりました。それ以来、誰いふとなくその岩のことを今に七桶岩と呼んでゐます。 (東京市赤坂区新坂町八松尾方、中川純報)

同話:
日本昔話名彙p160『蛸の八本足』柳田国男 外部リンク
 昔婆が海辺で洗物をして居ると、すぐその前に大きな蛸があらはれて、これを切れと云はぬばかりに一本の大足をさし出した。婆は早速その足を切取つて帰り喜んで食べた。翌日も又洗物をして居ると昨日の蛸が足を一本切り取らせかうして7日間続いたが八日目のことである。婆さんは今日こそ、頭も一緒に取つてやらうと思つて出かけて行くと、蛸はいつもの通り残つてゐる一本の足を出して待つて居た。さうして婆さんがその足を切取らうとすると、急にその蛸がをどりかゝつて来て、残りの一本の足を婆さんの首に巻つけて海の底に引つぱつて行つた。
長崎県南高来郡

類話:
昔話通観1167『その手は食わぬ』
①たこが浜辺で眠っていると、猿がその足を毎日一本ずつ食う。
②たこが残りの一本で猿を海へ引きこもうとすると、猿は、その手は食わぬ、と言う。
③それから「その手は食わぬ」という言葉ができる。

たこ 外部リンク
笑の初   (わらいのはじまり) 桜川 慈悲成 寛政四

たこあまりあつさにはしの下へ
出てひるねをしてゐる「猫見付
足を七本くい一本のこしておく
たこ目をさまし「なむさん足
をくわれたかなしやと向ふを
見れハねこそらねゐりを
してゐるタコ川へまきこまん
と一本の足てちやらす「猫
その手はくわん

蛸あまり暑さに橋の下へ
出て、昼寝をしている。猫見付、
足を七本食い一本残しておく。
蛸、目をさまし「ナムサン、足
を食われた悲しや」と向うを
見れば、猫、空寝入りを
している。蛸、川へ巻きこまん
と、一本の足でぢゃらす。猫、
その手は食わん。