2022年6月10日金曜日

赤い鳥第4巻第1号

赤い鳥04.01 大正9年(1920)1月1日発行 大正8年(1919)12月3日印刷納本
目次

「赤い鳥」一月号(第四巻第一号)
 花つなぎ(表紙、石版) 清水良雄
 七姫(口絵、油絵) 清水良雄
 自由画(口絵、写真) 山本鼎 選
芒(曲譜) 成田為三
 団栗(推奨曲譜) 加藤照顕
雪のふる夜 (二) 北原白秋
金糸鳥物語(童話) (四) 鈴木三重吉
鈴子さんのお母様 (一四) 有島生馬
玩具の舟(童謡) (二二) 西條八十
コケコツコー(童話) (二四) 島崎藤村
毒の大熊(歴史童話) (二八) 鈴木三重吉

 新兵さん(入選童謡) (二八) 北原白秋 選
 松中三郎 野村清三
 豊永次郎 半田嫩花
 川上すみを 冬木玉太郎
 佐野与 佐々木博
 植田その子 納谷三千男
 伊谷しろ人 前田考受
 近藤東  田澤新
 徳安一郎 井上はじめ
 綾小路草夫 小野朗子
 近藤九葉 児島善遠
 八木しげき
 
 小鳥の酒場(推奨童謡) (三八) 桑名晴葉
酔つぱらひ星(童話) (四〇) 小川未明
女王様の馬(童話) (四六) 茅野蕭々
冬(童謡) (五○) 柳澤健
魔術(童話) (五二) 芥川龍之介
緑のお家(童謡) (六二) 北原白秋
 暴れ馬(模範綴方) (六四) 鈴木三重吉選
 川手よね 帆足信子
 平井功 伊藤文子
 田中喜一 浅井雪子
 都築鎗太郎 木俣修二
 大塚いきの 横江継子
 渡邊岩子 大西のし

 三つの星(入選童謡) (六六) 北原白秋選
 上林義郎 川手よね
 吉野雪江 金田平八
 岡義忠 岩佐東一郎
 星野義任 根岸発四蔵
 阿出川進次郎
 
 河童の謡(地方伝説) (七二) 鈴木三重吉 <河童の謡><人年貢>
  通信、地方童謡、各地遊戯 (七四)
 さし絵、飾り絵 清水良雄
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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

 
「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。

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赤い鳥04.01p04-13長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.02p04-13長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.03p38-47長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.04p28-33長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
赤い鳥04.05p74-77長編童話『金糸鳥物語』鈴木三重吉
童話全集03.38『かなりや物語』(フランス)

出典:THE ENCHANTED CANARY  外部リンク
(Charles Deulin, Contes du Roi Gambrinus. )
The Red Fairy Book Edited by Andrew Lang
注:Gambrinus [Cambrinus]の誤り

DÉSIRÉ D AMOUR  外部リンク
Contes du roi Cambrinus
Charles Deulin · 1874

類話:Type 408 三つのオレンジ。オレンジのお姫さまの探求。間違いの花嫁。

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赤い鳥04.01p72地方伝説その五08『河童の謡』浅香邦水

河童の謡(地方伝説その五)
  鈴木三重吉選
(八)河童の謡 昔上野(かうづけ)の或村の名主に兵庫といふ大層馬の上手な人がをりました。当時江戸表に競馬会があつた時、馬の尾へ一疋の絹をくゝりつけて走つて、名誉の一等賞を取つた程の名人でした。この人が或時村から遠乗りに出かけた帰りに、村のそばの或森蔭の川のところまで来ましたが、生憎そこいらには橋がないものですから、兵庫は馬諸共に、青い深い水の中へドブンと飛び込んで、ざぶざぶと川の中程まで乗切つてまゐりました。
 すると不意に何ものかゞひよこりと馬の尾へ取ツつかまりました。馬は驚いて水の中へ棒立ちになりました。兵庫は危(あやふ)く振り落されるところをやつと踏みこたへて、岸へ乗り上げた上、よく見ますと、馬の尾に大きな河童の奴が取つ付いてゐるのです。大抵のものならびつくりして度を失ふところですが、さすがに兵庫はびくともしないで、それなりぴゆうと馬を飛ばして帰りました。
 河童の奴は、もと/\たゞ悪戯に馬の尾にぶら下つて見たのですが、乗り手がどツと走り出したので、とう/\手を離す閑がなくてそれなりぴゆう/\引きづられて行き、とうとう兵庫の家(うち)の庭まで来て、泥まぶれのまゝばたりとぶつ倒れてしまひました。兵庫は家の人たちを呼んで、手早くその河童を縛り上げてしまひました。河童は水の中でこそ大威張りで人の腸(はらわた)をぬき取つたりしましたが、かうなつてはどうすることも出来ません。丁度野良がへりの村人は、これを聞くとわい/\見物に来て、兵庫の家の庭は黒山のやうに人が集(たか)りました。皆(みんな)はこれを聞くと「何だこの河童奴(め)。おらたちが名主さアのお乗り馬い喰つ付きやがつて畜生、勘弁なんねえ」と結局撲ち殺してしまふことにきめました。
 河童は青くなつて「どうも悪いことをいたしまして、申わけもございません。これからは決して悪戯は致しませんから、どうぞ命だけはお助け下さいまし。その代りお礼としてお魚を取つてまゐりますから」と兵庫に向つてさん/"\あやまりましたので名主も可哀さうになつて許してやりました。翌(あく)る朝になつて見ますと、その辺で半切と言つてゐる低い樽の中へ、川魚(かはうを)がたつた一匹入れてありました。それからは兵庫が馬に乗つて例の川のほとりを通りますと、きつと青く澄んだ川の中から河童が変な声でこんな謡を謡ひました。
 「いぢり焼きの兵庫殿、
  せゝり焼きの兵庫殿、
  私(わし)を助けたその功(かひ)にや、
  大作小作は皆実る、
  お家(いへ)は重代御大尽、
  お村はいつまで豊作ぢや、
  いぢり焼きの兵庫殿、
  せゝり焼きの兵庫殿。」と
 これは上州多野郡上野村の伝説です。その辺では生の玉蜀黍を恩灰(ぬくはひ)の上に転がして焼いて食べますが、今までも村の人はその玉蜀黍を焼くときにこの謡を謡ひます。名主の兵庫といふのは、実は私の祖父の祖父でした。(東京府下、王子田端九、浅香邦水報)
 
類話:
赤い鳥復刊03.06p36-43伝説『河童』堀歌子

日本昔話通観378『河童の魚』
①子供姿の河童が馬を淵へ引きこもうとするが、逆に馬は河童を引きずって帰る。
②河童は主人に詫び、証文を書いて許され、毎朝木の鉤に魚をかけて届ける。
③妻が欲を出して鉤を鉄製に変えると、魚は届けられなくなる。

Type47C=K1022.2
牛の角に繋がれた狼。

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赤い鳥04.01p72-73地方伝説その五09『人年貢』岩本賢雄

(九)人年貢 私(わたくし)どもの村の人里はなれた山河(やまかは)といふところに氏神様があります。いつのことですか、づつとの大昔には、この氏神様に年に一度づつ若い娘を人年貢に上げるのが極りになつてゐたさうです。ある年、村の作之助といふものゝ家(うち)へ、その順番があたりました。愈その日になりましと、作之助夫婦は娘を真中にすゑて、朝からおい/\泣き続けてをりました。その内に時刻が来ますと村の頭の人のところから、人年貢を入れ木箱が来ました。双親(ふたおや)は、泣き/\その中へ娘を入れて、氏神様へ担いで行かうとしますと、ふと一人の山伏がそこを通りかゝりました。山伏はそれをお葬(とむら)ひだと思つて見てゐましたが、よく聞いて見ると娘を人年貢につれて行くのだといふので、驚いて「世の中にそんな馬鹿げた話があるものか。氏神さまともあるものが氏子を取つて食ふといふ法がどこにあらう。くつと相手は魔物にちがひない。おれが見極めてくるから任しておけ。ともかく、その箱は中の人が出られないやうに堅く蓋をうちつけておいてくれ」と言ひました。作之助夫婦は大喜びで、すぐに釘を打ちつけて、その儘氏神さまのお社へおいて来ました。山伏は社の天井に隠れて待つてをりました。すると真夜中になりますと、どこからともなく一匹の化物が現れて「このことばかりは赤岩の、金太郎小僧にや内々々。このことばかりは赤岩の、金太郎小僧にや内々々」と謡ひながら出て来ました。そして恐しい目を光らせて、木箱の蓋を取らうとしますと、中々開かないものですから、うウ/\怒りながらその箱のまはりを駈け廻つてをりました。その内に、白々と夜が明けかけたので、化物はとうとうこそ/\と遁げ出しました。
 山伏は化物が謡つた歌を考へて「金太郎には内々々だ」といふからには、その金太郎といふ人を余程恐れてゐるらしい。だからその人に退治させれば一番世話がないと思ひまして、夫婦にその話をしました。赤岩といふのは私(わたくし)どもの村と千曲川を一筋隔てた、高社山麓(かうしやさんろく)にある村です。山伏はその村へ出かけて金太郎といふ人を探しましたが、だれも一向知らないと言ひました。すると最後に或茶店のものが、それはそこに寝てゐる犬のことでせう、それ、その犬が金太郎といふのだと教へてくれました。山伏は成程と早速その犬をつれ帰つて、例の木箱の中へ娘の代りにその犬を入れて社へ持ち込みました。化物は真夜中になると「このことばかりは赤岩の」謡ひながら、のこ/\出て来ました。そして箱の蓋を開けますと、金太郎はわツと飛び出して、勢鋭く喰つてかゝり、その化物と一しよにころ/\転り転つて噛み合ひました。その内にそのはげしい物音も静まつて段々と夜が明けましたので山伏は天井から下りて見ますと、犬はその場に倒れて苦しさうに息をしてゐましたが間もなくそれなり死んでしまひました。あたりを見ると生臭い血がぽと/\落ちてゐます。その血をどこまでもたどつて行くと山河の谷間へ来ました。見るとそこには大きな大狸が血塗れになつて倒れてをりました。山伏はその狸にとゞめを刺して帰つて来たといふことです。今この氏神は、里宮の方が賑やかで、もとのお社には、石の塔がさびしく立つてゐるばかりです。(長野県下水内郡秋津村 岩本賢雄報)

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