赤い鳥05.01 大正9年(1920)7月1日発行 6月5日印刷納本
目次
「赤い鳥」七月号(第五巻第一号)
舟あそび(表紙、石版) 清水良雄
長安の都(口絵、油絵) 清水良雄
推奨自由画(口絵、網版) 山本鼎選
植木 竹尾潮
花 酒井堅信
烏の手紙(曲譜) 近衛秀麿
犬と雲(童謡) (2) 西條八十
間諜(童話) (4) 鈴木三重吉
杜子春(童話) (18) 芥川龍之介
天地の水(童話) (34) 楠山正雄
罌粟の圃(童話) (44) 小川未明
いたづら人形(童話) (52) 佐藤春夫
野火(入選童謡) (52) 北原白秋選
蝋燭(推奨童謡) (60) 熊岸英一
鵞鳥の首(推奨童謡) (60) 加田愛咲
山(推奨童謡) (61) 林田馬行
狼と牡牛との戦(童話) (62) 菊池寛
年あらそひ(少年少女劇) (70) 久保田万太郎
木の葉の小判(童話) (82) 江口渙
難波のお宮(歴史童話) (88) 鈴木三重吉
春のくれがた(童謡) (98) 西條八十
さし絵、かざり絵 清水良雄 深澤省三
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[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
「鈴木三重吉童話全集」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。
出典:Deux amis
GUY DE MAUPASSANT
二人の友 ギイ・ド・モオパッサン 外部リンク
ルクサンブール 石川剛 訳 大倉書店 大正2年
赤い鳥05.01p18-33童話『杜子春』芥川龍之介
出典:古今説海 巻30 説淵10別傳10『杜子春傳』(明)陸楫 編 外部リンク
舊小說 乙集 唐p16『杜子春傳』 外部リンク
注:赤い鳥の「杜子春」には、物語が終わった後に、付記があります。
付記
これは杜子春の名はあつても、名高い杜子春伝とは所々、大分話が違つてゐます。(三)のしまひにある七言絶句は、呂洞賓(りよどうひん)の詩を用ゐました。少年少女の読者諸君には、「ちちんぷいぷいごよの御宝」と同じやうに思つて貰ひたいのです。
注:杜子春は3つのモチーフから構成されています。
モチーフ1:財産を散在し人間不信になる。
The Sleeper and the Waker.
外部リンク
SUPPLEMENTAL NIGHTS TO THE BOOK OF THE THOUSAND AND ONE NIGHTS
WITH
NOTES ANTHROPOLOGICAL AND EXPLANATORY
By Richard F. Burton
ORGINAL
CONTENTS OF THE ELEVENTH VOLUME.
注:バートンの解説には次のようにあります。「この話はオスマン・トルコのムスタファの治世の晩年に完成した、「Al-Ishákí」に見られ、事実として語れれる逸話である」
千夜一夜11巻『眠っている者と目ざめている者』
外部リンク
バートン版 大宅壮一 訳
モチーフ2:夢の世界に誘われる。
千夜一夜「眠っている者と目ざめている者」では、教主(カリフ)になったと思い込まされる。
今昔物語5.3『 国王が、盗人に夜光る玉を盗まれた語』では、天界にいると思わせる。
モチーフ3:言葉を発してはならない。
Type 451-3.(b)妹は兄たちの魔法を解くために、何年も沈黙を守らねばならない。
D758.沈黙を守ることで魔法を解く
赤い鳥『白い鳥の話』久保田万太郎
02.05p22-27,02.06p50-55,03.01p52-55童話
THE
SIX SWANS
外部リンク
THE Yellow Fairy Book BY ANDREW LANG
グリム金田54『六羽の白鳥』49
今昔物語5.3『
国王が、盗人に夜光る玉を盗まれた語』では、盗人は「盗みをした」と答えるように誘導されるが答えない。
注:芥川龍之介の「杜子春」と楠山正雄の「天地の水」の出典は次に示すような関係にあります。
赤い鳥05.01p18-33童話『杜子春』芥川龍之介
赤い鳥05.01p34-43童話『天地の水』楠山正雄
古今説海 巻30 説淵10別傳10『杜子春傳』(明) 陸楫 編
外部リンク
古今説海 巻53 説淵33別傳33『李衛公別傳』(明) 陸楫 編
外部リンク
舊小說 乙集 唐p16『杜子春伝』
外部リンク
舊小說 乙集 唐p40『李衛公別伝』
外部リンク
同誌・同巻で前後する作品の出典が同じというのは、偶然とは考えられません。出典の選定に編集者のなんらかの意図があったのかもしれません。
赤い鳥05.01p34-43(童話)『天地の水』楠山正雄
楠山正雄 赤い鳥社 大正10
籠耳. 巻之3 稀書複製会 編 米山堂 昭和14年
旱魃に雨ごひをする事むかしよりその例なきにあらず。蔵人神泉苑(しんぜんえん)にゆきむかひ人をあつめ池のほとりを掃除し石に水そゝきさて高声(かうしやう)にみな人一同に雨たべ海龍王といえり七日がうちにしるしなきときハ蔵人をかへらるゝとなん又しるしありて雨ふりぬれバみかど蔵人を朝餉(あさがれい)へめし御衣をたまハり蔵人庭へをりて舞踏する事あり又陰陽師(をんやうじ)五龍の祭を奉仕する儀もありあるひハ神祇官(じんぎくワん)御ことのりをうけ給ハりて諸神にいのる儀もあり又七大寺(しちだいじ)にて請雨経をよむ儀もありあるひハ諸寺諸社にて金剛経般若経をよみし例も有し也禁秘抄に詳に見へたりもろこし李衛公といふ人山中に猟(かり)して山ふかく入(いり)て日くれぬ。こゝに丹ぬりの門をたてたる家あり.うちにいりてみれバあるじもなし。さいわいの事とおもひこゝに一夜をあかしぬその夜やはんばかりになにものとハしらず。門をあわたゝしくたゝく李衛公門をひらきて見れバ一人の女なり。この女李衛公を見てあやしミていわく。こゝハこれ人間世界にあらず龍宮也なんぢいずくよりきたれるやあるじハいづかたへかゆきける外界の民(たミ)旱魃をうれひてしきりに雨ごひをするがゆへに天よりこよひ雨をふらすべきよしのつかいにまいりたりあるじの人るすでハさいわひその方(ハう)をたのむべしとて青駁毛(あをぶちげ)の馬に黄いろなる鞍覆(くらおほひ)をかけ。かたハらに雨をいれたるちいさき缾(つぼ)ひとつを李衛公にわたしていひけるハ。その方この馬にまかせてゆくときいづくにとなりとも。この馬嘶ところにてこの缾なる水一滴を馬の髪(ふりかミ)のうへよりこぼし給へ。この一滴の水下界におちて地上三尺となる也かまへておゝくこぼし給ふ事なかれとおしえてたちまち雷(いかつち)いなびかりおびたゝしくしてかの女ハ黒雲(こくうん)にうちのりゆきがたしらずうせにける李衛公くだんの缾(つぼ)をたづさへかの馬にうちのるとひとしくとぶがごとくせつながあいだに虚空をかけりめぐるときわが故郷のうへをとをる李衛公おもふやうわが故郷にもこのごろ旱魃して雨をこひけるほどにとおもひひいきに三十滴余こぼせしほどに故郷は洪水いでゝ平地に水三丈あまりとなり田畠民家(でんばくミんか)こと/\くながれけると也公のわたくしハせぬ事十分ハ覆もの也とぞ
赤い鳥05.01p62-69童話『狼と牡牛との戦』菊池寛
狼と牡牛との戦 赤い鳥の本 4 三人兄弟 菊池寛 大正10 外部リンク
注1:この話は、北海道の牧場で働いていた権助という年寄から聞いた話。という体裁で書かれているので、北海道に伝わる話、或いは創作と考えられてきましたが、スコットランドのハイランド地方が舞台の「THE BATTLE OF THE WHITE BULL」の翻訳であると分かりました。
出典:
THE BATTLE OF THE WHITE BULL 外部リンク
The all sorts of stories book
by Mrs. Lang ; edited by Andrew Lang
注2:菊池寛の「赤い鳥の本 4 三人兄弟」の中には、The all sorts of stories book を出典とする話が、他に2作品あります。
不思議な話 外部リンク
The Strange Tale of Ambrose Gwinett 外部リンク
本当のロビンソン 外部リンク
The Real Robinson Crusoe 外部リンク
また、「赤い鳥04.05p62-67童話『若いコサツク騎兵』小島政二郎」も同じ本を元にしていますので、菊池の翻訳に小島が関わっていた可能性が考えられます。
『恐ろしい狼二匹と戦つて、見事に勝つた「白」はその後も牛仲間の大王のやうに、威張つてゐましたが、丁度それから四年目の冬に、熊の中でも一番強い羆といふ大熊と戦つて、相手を角で突き殺すと一緒に、自中(じぶん)も熊の前足で、首の骨を折られて、死んでしまひました。・・・』
これは、原文にはないものなので、翻訳の際に付け加えられたものです。そしてこれは、「赤い鳥02.01p62-67創作童話『熊』久米正雄」の関連を匂わせているかのようです。