2022年9月6日火曜日

赤い鳥第5巻第3号

赤い鳥05.03 大正9年(1920)9月1日発行 8月5日印刷納本
目次

赤い鳥05.03 大正9年(1920)9月1日発行 8月5日印刷納本

   「赤い鳥」九月号(第五巻第三号)
お月さま(表紙、石版) 清水良雄
にせ浦島(口絵、水絵) 清水良雄
推奨自由画(口絵、網版) 山本鼎選
 蛍がり 丸山象次郎
 警察署 市川一
お山の大将(曲譜) 成田為三
葉つぱ(童謡) (6) 北原白秋
跛の狐(童話) (8) 鈴木三重吉
セッサリイの白牛(童話) (20) 久米正雄
藁の牛(童話) (28) 小林哥津子
花火(童謡) (34) 西條八十
しみのすみか(童話) (36) 楠山正雄
いたづら人形(童話) (46) 佐藤春夫
 とんぼ(入選童謡) (46) 北原白秋選
 麦の穂(推奨童謡) (54) 有馬淳
 蚯蚓(推奨童謡) (54) 垠谷一彦(きしやかずひこ) [根谷]
 青蛙(推奨童謡) (55) 早川午佐久
 なみだの小人(推奨童謡) (55) 堀部英次
腰抜武士(童謡) (56) 小島政二郎
白鳥の国(童話) (60) 秋田雨雀
樫の宮(童話) (66) 豊島与志雄
鹿の群、猪の群(歴史童話) (74) 鈴木三重吉
頬ひげ(童謡) (82) 西條八十
 椋の花(自作童謡) (84) 北原白秋選
 ほゝ白の巣(模範綴方) (88) 鈴木三重吉
 特選図書購読会 (98)
さし絵、かざり絵 清水良雄 小笠原寛三
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それぞれの話の出典・同話・類話・参照
 
凡例:
[出典]:出典元と思われる話。
[同話]:同じ話ではあるが、出典元かどうかはわからない。
[類話]:プロットやモチーフが似ている話。民話の場合、各国に類似する話が多数ある。
[参照]:モチーフの一部やプロットの一部、題名が似ているなど。

「鈴木三重吉童話全集 文泉堂(1975)」の付言にはそれぞれの話の国名が書かれている。それを( )内に表記した。しかし実際の国名と合わないこともある。
鈴木三重吉童話全集については、次を参照

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赤い鳥05.03p8-19童話『跛の狐』鈴木三重吉 外部リンク
鈴木三重吉童話全集04.10『びつこの狐』(ユーゴースラビヤ)  外部リンク

出典:
Laughing Eye and Weeping Eye, or the Limping Fox (Servian Story)  外部リンク
[Contes Populaires Slaves. Traduits par Louis Léger. Paris: Ernest Leroux, éditeur.]
THE GREY FAIRY BOOK By Various Edited by Andrew Lang

注:三重吉の翻訳には、原話とは違う部分がいくつかあります。その中でも、次の2つは特に目を引きます。
第一に、子ども達が、父親に、「一方の目は笑っているのに、もう一方の目は泣いているのはなぜか?」と尋ねると、父親が激怒します。この際、原話では、「ナイフを持って襲いかかった」となっていますが、三重吉はこの部分を「拳固を振り上げた」と、常識的な表現に変えています。原話では、ナイフにも怯まなかった三男の勇気を強調したかったのかもしれません。

次に、主人公は、父親が盗まれた「ブドウの木」を取り返しに行くのですが。次々に失敗します。失敗の変遷は次の通りです。

 1.「ブドウの木」→2.「黄金のリンゴの実」→3.「24時間で世界を回れる馬」→4.「黄金の乙女」

そして三重吉は、2.「黄金のリンゴの実」のモチーフを、「銀の卵を生む鳩」と変更しています。このようなモチーフの変更は、「赤い鳥04.06p52-59童話『大当てちがひ』樋口やす子(鈴木三重吉)」でも用いられたのではないかと考えられます。

類話:
Type 550 Search for the Golden Bird.
グリム童話57『黄金の鳥』

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赤い鳥05.03p20-27童話『セッサリーの白牛』久米正雄  外部リンク 

注:目次には『セッサリイの白牛』とある。

出典:
The Serpents' Gift. 外部リンク
The all sorts of stories book by Mrs. Lang ; edited by Andrew Lang

ギリシア神話1.9 クレーテウス…ビアースとメラムプース  外部リンク
ギリシア神話 アポロドーロス著 高津春繁訳
世界文学全集第2(ギリシャ神話)

類話:
伝説の時代24章『メランプス』 外部リンク
タマス・ブルフィンチ著 野上弥生子訳 向文堂 大正2(1913)
注:夏目漱石の序文がある。外部リンク

オヂュッセーア 第十五歌 223 外部リンク
ホーマー 著 土井晩翠 訳 富山房 昭和18(1943)

 twitter

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赤い鳥05.03p28-33童話『藁の牛』小林哥津子

同話:
The Straw Ox (Cossack)  外部リンク
Tales of Laughter A THIRD FAIRY BOOK EDITED BY KATE DOUGLAS WIGGIN
AND NORA ARCHIBALD SMITH

THE STRAW OX. 外部リンク
MORE RUSSIAN PICTURE TALES BY VALERY CARRICK
TRANSLATED BY NEVILL FORBES

藁の牛 外部リンク
世界お伽噺. 第三十六編  巌谷小波 編  博文館 明治35年(1902)

麦藁の牛 外部リンク
ろしや童話集 永橋卓介 編 金蘭社 
世界童話叢書 ; 第3編 大正14 

わらの牛 外部リンク
小波世界お伽噺 巖谷小波 生活社 昭和21-22
序文:
『露領コサックのお伽噺として、世界口碑集(米国出版)の中にありました。漆のつもりで書いてあるのは、実はリモンといふ、一種の塗り物でありますが、わざと日本風に変えました。』
(鈴木華邨 画)

類話:
Type 175 タール人形と兎
K741.
赤い鳥08.06p8-17童話『やんちや猿』鈴木三重吉
(場面4)

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赤い鳥05.03p36-45童話『しみのすみか』楠山正雄  外部リンク
苺の国 赤い鳥の本第8冊 にせ浦島 外部リンク 若くなる泉  外部リンク

注:「しみのすみか」は、「1.にせ浦島」と「2.若くなる泉」の2つの話が収められています。

1.にせ浦島
出典:
しみのすみか物語  石川雅望  文化2年
丹後国の痴人龍宮に行たる事 外部リンク

注:にせ浦島は、浦島太郎のパロディーで、「浦島太郎」と「クラゲの骨無し」の2つの話が組み合わされています。そして、「クラゲの骨無し」の話は2つのタイプがあります。

a.クラゲが竜宮城の門番の話

日本昔話通観577『猿の生き肝』
①竜宮の乙姫の病気に猿の生き肝を薬にすることになり、亀が猿を連れてくる使いにやられる。
②亀が、竜宮に招待したい、と猿をあざむいて背に乗せて連れてくると、門番のくらげがうっかり本音を漏らす。
③猿が、肝は木に掛けている、と言うので、亀は猿を地上へ連れ戻す。
④猿が亀の背に石をぶつけ、亀の甲羅にひびが入る。
⑤くらげは魚たちに叩きのめされ、骨なしになる。

日本昔話名彙 海月骨なし(猿の生肝)  外部リンク
柳田国男 日本放送出版協会
亀が生肝をとるつもりでだまして海中に連れて行つた猿に、海月(又は蛸)が告げ口をして骨を抜かれる話。

日本の昔話  海月骨無し 外部リンク
柳田国男 三国書房 昭和16(1941)

日本昔話 くらげほねなし 外部リンク
坪田譲治 講談社 昭和26

Die Qualle 外部リンク
Japanische Märchen und Sagen
David Brauns 1885(明治18)

HOW THE JELLY-FISH LOST ITS SHELL. 外部リンク
Japanese Fairy World Stories from the Wonder-lore of Japan
William Elliot Griffis · 1880(明治13)

注:日本の昔話集のようなものは、まず、明治になって日本にやってきた西洋人により編集されます。グリム兄弟などの成功により、昔話の収集というのは学問の一分野と考えられていたためだと思います。

b.クラゲが猿を迎えに行く話

日本童話宝玉集.下巻 くらげのお使  外部リンク
楠山正雄 編 富山房 大正10-11

The Silly Jelly-Fish 海月  外部リンク
Basil Hall Chamberlain
日本昔噺第十三号 弘文社 明治20年(1887)

注:a.bのクラゲの話は、今昔物語が基になっています。

今昔物語05.25『亀、猿の為に謀らるる語』 外部リンク
攷証今昔物語集. 芳賀矢一 編 大正2-3

注:今昔物語のこの話は、インドの昔話が基となっています。(仏典系の類話については、攷証今昔物語集の解説に詳しくあるので参照下さい。)

カリーラとディムナ05『猿と亀』
イブヌ・ル・ムカッファイ 著 菊池淑子 訳  東洋文庫
注:カリーラとディムナは、インドのパンチャタントラがアラビアにつ伝わった話です。

パンチャタントラ 4『猿の心臓をとりそこなった鰐(または海豚)』  外部リンク
世界童話大系. 第10巻(印度篇) 世界童話大系刊行会 大正14

注:カリーラとディムナでは、猿を騙そうとするのは亀ですが、パンチャタントラでは、亀ではなく鰐(または海豚)となっています。今昔物語は、カリーラとディムナの系統の話と言えると思います。また、沙石集では蛟(みずち)たなっているので、パンチャタントラの系統と言えると思います。

沙石集8.5『学匠之蟻蹣之問答事』 外部リンク
攷証今昔物語集. 芳賀矢一 編 大正2-3  (解説付記)

Type 91 家に心臓を置いてきた猿(猫)
K544 心臓は別な場所にあると主張して助かる。
赤い鳥07.03p6-15童話『洗濯屋の驢馬』(1.猿と鮫)鈴木三重吉

2.若くなる泉
出典:
しみのすみか物語  石川雅望  文化2年
美濃国の老夫婦わかかへる事 外部リンク

翻刻:
六樹園 [著][他] 珍書会 大正4
賞奇楼叢書 ; [1期] 第5集
丹後国の痴人龍宮に行たる事 外部リンク
美濃国の老夫婦わかかへる事 外部リンク
注:おそらく、楠山正雄が基にしたのはこの本だと思われます。

日本昔話名彙 若返りの水[彼岸水] 外部リンク
柳田国男 日本放送出版協会

日本昔話通観29『若返りの水』
①爺が山で仙人に教わって清水を飲み、若返る。
②婆がまねてその清水を飲みすぎて赤子になり、爺に養われる。

今歳咄 ぢぢとばば  外部リンク
今歳花時  書苑武子  文苑堂  安永2 [1773] 刊

参考:
Type 753 キリストと鍛冶屋
変身物語7.160『アイソン』
変身物語7.290『ペリアスとその娘たち』
グリム147『わかくやきなおされた小男』